ディンキン図形を知る(ルート系とディンキン図形)

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April 13, 19

スライド概要

第4回 関西日曜数学 友の会
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ディンキン図形を知る - usami-k 数学日記
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各ページのテキスト
1.

ディンキン図形を知る (ルート系とディンキン図形) 宇佐見 公輔 2019 年 4 月 13 日 1

2.

ディンキン図形とは何か 「ルート系(root system) 」と呼ばれる対象を図であらわしたもの が「ディンキン図形(Dynkin diagram)」です。 Example (ディンキン図形) 2

3.

ルート系とは何か 実ベクトル空間の部分集合で、ある特定の条件(これはもう少し 後で述べます)を満たすものを「ルート系(root system) 」と呼 びます。 Example (ルート系) 3

4.

なぜルート系を考えるのか ルート系は、リー代数(Lie algebra)を分類する研究の中であら われました。 • 複素数体上の有限次元単純リー代数は、ルート分解という直 和分解ができます。 • そこに出てくるルート(root)というベクトルの集合は、あ る一定の性質を持っています。 • この性質をルート系の定義として、ルート系の分類をするこ とでリー代数の分類ができます。 その後、数学の様々な分野でルート系が登場することが知られる ようになりました。 4

5.

ルート系の定義の準備:鏡映 E を有限次元実ベクトル空間、v, w ∈ E の内積を (v|w) とします。 Definition (超平面) v ∈ E に対して Pv := {w ∈ E | (v|w) = 0} と定義し、v と直交す る超平面(hyperplane)と呼びます。 Definition (鏡映) v ∈ E と x ∈ E に対して、 c(x, v) := 2(x|v) (v|v) と定義し、写像 σv : E → E を以下で定義します。 x 7→ x − c(x, v)v σv を、超平面 Pv に関する鏡映(reflection)と呼びます。 5

6.

ルート系の定義 Definition (ルート系) ∆ ⊂ E がルート系(root system)であるとは、以下を満たすこと です。 1. ∆ は 0 を含まない有限集合で、E を張る。 2. c ∈ R、v ∈ ∆、cv ∈ ∆ のとき、c = ±1 である。 3. v ∈ ∆ のとき、σv (∆) = ∆ である。 4. v, w ∈ ∆ のとき、c(v, w) ∈ Z である。 また、ルート系の元をルート(root)と呼びます。 条件 4 が少し分かりにくいですが、言葉でいえば、 「v の鏡映 σv で w を移したときの差分が v の整数倍になる」という感じになり ます。 6

7.

ルート系の例 Example (2 次元空間のルート系) 7

8.

2 つのルートの関係 ベクトル v, w のなす角を θ とします。 c(v, w) の定義から c(v, w)c(w, v) = 4 cos2 θ が導けます。 ここで v, w をルートとし、それらが線型独立とすると、 c(v, w) ∈ Z から、 c(v, w)c(w, v) = 0, 1, 2, 3 となることが分かります。 また、θ のとりうる値は以下です。 π π 2π π 3π π 5π , , , , , , 2 3 3 4 4 6 6 8

9.

ルート系の底 ルート系には、基底のようなものが存在しています。 Proposition (ルート系の底) ∆ ⊂ E をルート系とします。以下を満たす Π ⊂ ∆ が存在します。 1. Π は E の基底である。 P 2. v ∈ ∆ を v = e∈Π ce e とすると、ce は全て 0 以上の整数、 または全て 0 以下の整数となる。 Π を ∆ の底(base)と呼びます。 9

10.

ディンキン図形の定義 Definition (ディンキン図形) ∆ を n 次元空間のルート系、Π を ∆ の底とします。 以下のように構成されるグラフを ∆ のディンキン図形(Dynkin diagram)と呼びます。 1. n 個のノードを持つ。各ノードは Π の元でラベルづけされる。 2. ノードとノードを何本かの辺で結ぶ。その本数は c(v, w)c(w, v) とする。(したがって、0〜3 本である) 3. 辺で結ばれたノードについて、(v|v) と (w|w) が異なる場合、 大きいほうのノードから小さいほうのノードへ矢印をつける。 補足:c(v, w)c(w, v) = 1 のときは (v|v) = (w|w) であるため、矢 印がつくのは辺が 2 本または 3 本のときとなります。 10

11.

ディンキン図形の例 Example (2 次元空間のルート系のディンキン図形) 11

12.

なぜディンキン図形を考えるのか ルート系の性質をディンキン図形の性質に置きかえると、簡単な 性質になります。例えば、以下のような性質が導けます。 • ループを持たない。 • 分岐は多くともひとつしかない。 • ひとつのノードから出る辺は 3 本以内である。 また、分岐がある場合にそれぞれの分岐はどのくらいの長さが可 能か、といった議論もできます。 これらを使って可能なディンキン図形を分類することで、ルート 系の分類ができます。 12

13.

ディンキン図形の分類 Theorem (ディンキン図形の分類) ディンキン図形は以下のいずれかと一致する。また、以下のディ ンキン図形に対応するルート系が存在する。 • An (n ≥ 1) • Bn (n ≥ 2) • Cn (n ≥ 3) • Dn (n ≥ 4) • En (n = 6, 7, 8) • F4 • G2 具体的な図は次ページ以降で。 13

14.

ディンキン図形:古典型 An Bn Cn Dn 14

15.

ディンキン図形:例外型 E6 E7 E8 F4 G2 15

16.

ルート系とディンキン図形の面白さ 個人的に思う、ルート系とディンキン図形の面白さは以下のよう なところです。 • ルート系の性質が簡単なグラフ上の性質に置き換わる • 分類結果が多すぎず少なすぎず、ちょうどいいくらいの種類 • 例外型に感じられるロマン • いろいろな分野に顔を出す意外性 決して難しい理論ではないので、ぜひ触れてみてください。 また、拡大ディンキン図形など、類似の図形もいろいろあるので、 調べてみると面白いかと思います。 16