検査の面から見た膵癌診療の進歩(滋賀県臨床検査技師会)20210126

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January 26, 21

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検査の面から見た膵癌診療の進歩(滋賀県臨床検査技師会)20210126

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滋賀県立総合病院 化学療法センター 腫瘍内科医

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各ページのテキスト
1.

検査の面から見た膵癌診療の進歩 滋賀県立総合病院 消化器内科/化学療法部 後藤知之

2.

膵癌はむずかしい疾患!!

3.

膵癌は難しい! 膵臓は エコーで 描出しにくい! 組織検体が 取りにくい! 小さい! CTも非造影では 見えにくい! 腫瘍マーカーも 精度に限界が! 画像診断 間質や脂肪が 多くて 実質が少ない! 膵液細胞診は 検体の扱いが デリケート! 病理診断 切除が難しい! 術後合併症の リスクが高い! 切除しても 再発が多い! 手術治療 治療が 効きにくい! 適切な治療標的 分子が無い! 免疫療法も 効かない! 薬物治療

4.

膵癌の初期症状 • φ1cm以下で発見されれば5年生存率は80%以上が期待できるが、症状出現時で既に このラインを超えていることが少なくない。 • 膵癌は膵頭部に78%、膵体尾部に22%が生じるが、膵頭部のほうが黄疸や肝障害が出 現しやすいので早期発見されやすい傾向がある。 膵癌診療ガイドライン 2019年版

5.

膵癌診断までの検査を俯瞰すると 初期の拾い上げ 精査 確定診断 健診・診療所 地域病院 がん拠点病院

6.

疾患の拾い上げには どのような検査が行われる?

7.

腹部エコー検査 • 最初に健診施設や診療所で膵癌 の疑い病変が指摘されることが 多い検査 • 低侵襲・低コストでアクセス性 が良いためスクリーニング検査 にも使われる • 低エコー、尾側膵管拡張として 描出される • 膵尾部病変や膵管拡張が目立た ない微小病変は見つけにくい 腹部超音波検査による膵癌スクリーニング. 膵臓 2017. 30-37より

8.

腹部CT・MRI検査 • 腹部悪性腫瘍の定番画像検査 • 膵癌組織は血流が少なく造影CTでは背景膵より乏血性に描出(非造影では困難) • MRI(MRCP:Magnetic Resonance CholangioPancreatography)では 主膵管が膵癌の部分で途絶していることが多い 膵癌診療ガイドライン 2019年版 CQ DD1-3

9.

膵癌の血液検査 • 腫瘍マーカーCA19-9、CEA、SPAN-1、DUPAN-2、CA50、CA242 • 検出感度 CA19-9:70-80%、CEA:30-60%。 • 進行癌を除くと陽性率は低い(stageIAでCA19-9陽性率は55.6%) • 日本人の10%はLewis血液型陰性でCA19-9が産生できない (CA19-9の前駆体DUPAN-2が陽性となる) • アミラーゼ、リパーゼ、エラスターゼ1などは特異性が低い • 腫瘍マーカー以外では、HbA1cの急増(耐糖能の悪化)、T-bilやALP・γGTPの上 昇など閉塞性黄疸を示唆する肝障害が診断の契機となることがある。 糖尿病増悪を機に膵癌と診断される症例は5%程度あるとされ、急な糖尿病の悪化に 注意。糖尿病の新規発症2年後以内が多い。 膵癌診療ガイドライン 2019年版

10.

さらに高次医療機関で どんな精密検査を受ける?

11.

ERCP(逆行性胆道膵管造影) • 十二指腸側から膵管に細いカテーテルを 挿入し膵管造影で膵管狭窄部を診断する • 膵管・胆管生検(胆管浸潤時)・膵液細 胞診などの病理検体も採取できるが、検 体量は微量で採取成功率が低い問題あり。 • 急性膵炎や出血などの合併症があり侵襲 は必ずしも小さくはない。 (ERCP後の膵炎発症率は0.7〜11.8%) • 最近はEUS-FNAが普及して診断的な ERCPをしない症例が増えてきている。 膵癌診療ガイドライン 2019年版 CQ DD2-1

12.

胆道ドレナージ(胆管ステント留置) • ERCPからさらに胆管にステントを留置することができる。 • 特に膵頭部癌では胆道閉塞が問題となることが多いため症状緩和にも有用。 国立がん研究センター中央病院「ERCPと胆道ドレナージ」 https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/clinic/hepatobiliary_oncology/050/040/index.html

13.

超音波内視鏡(EUS) • 消化管内視鏡の尖端に超小型のエコー装置がついている(経食道エコーのように) • 病変に近接し高周波プローブで観察でき、消化管ガスの影響も受けにくい 膵癌診療ガイドライン 2019年版 CQ DD1-4

14.

超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA) • EUSで観察下に22G〜25G程度の穿刺針で膵癌の病理検体を採取する。 • 従来は50%しか病理検体が取れなかったのが90%程度で採取できるようになる。 コンベックスプローブ カメラ(前方斜視) 穿刺針 膵がん診断における EUS-FNAの現状と展望. 京都府立医大雑誌2012. 435-441

15.

EUSは造影ハーモニック画像・エラストグラフィも • 通常のEUS用内視鏡からさらに造影ハーモ ニック機能を搭載したCH-EUSも開発され ている。さらにEUSは術者による描出能の 差が大きいが、造影ハーモニックEUSでの 造影度の定量化(数値化)も行われている。 • エラストグラフィでは背景膵組織に比べて 膵癌は硬さのある病変として描出される。 • 微小病変の存在診断能が優れ、EUS-FNAの 標的病変の描出などに利用される。 • 保険請求上の問題がある。 膵癌診療ガイドライン 2019年版 CQ DD1-4 膵癌早期診断における EUS の役割. 膵臓 2017. 38-44

16.

膵癌早期診断のための病診連携 • 診療所からがん拠点病院まで連携して膵癌 拾い上げの体制を整える地域が増えている • 尾道方式:2007年から医師会・行政などが連携 し、診療所での腹部USから拠点病院でのEUSFNAまでが円滑に進むような体制を構築 • 他に岸和田、山梨、大阪府北部などで類似の取 り組みがある • Stage I〜IIの早期で診断される割合が増加 • 診療所との連携体制やEUSなど拠点病院の 検査キャパシティが無ければ難しい https://medicalnote.jp/contents/170823-001-KV

17.

膵癌診断のアルゴリズム • 症状・採血・腹部エコーなどで拾い上げ • CT・MRI・EUSで局在と性状を診断 • EUS-FNAで病理検体が採取できなければ ERCPで膵液細胞診などを試みる (病理学的確定診断が得られないまま手術 に及ぶことも少ないながらある) • EUS以降の精査は症例数の多い医療機関で 行うことが推奨されている 膵癌診療ガイドライン 2019年版

18.

診断された膵癌は どのような治療を選ぶのか?

19.

膵癌治療のアルゴリズム • 切除の可能性に応じて3段階にわける • R(resectable:切除可能) • BR(borderline:切除可能境界) • UR-LA(unresectable, locally advanced:局所進行) • UR-M(unresectable, metastatic:転移性) • 可能であれば外科的切除治療が最善 (唯一の根治的治療) • 化学放射線療法と化学療法の優劣は明確でない (当院は化学療法を優先的に実施) 膵癌診療ガイドライン 2019年版(2019年10月部分改訂)

20.

膵癌治療のアルゴリズム • フッ化ピリミジン系とゲムシタビン系の2本柱 • どちらかを先に使うと、もう片方をあとから使う • 化学療法は進行を遅らせても治癒はしない (緩和的化学療法) • 分子標的治療薬は膵癌ではあまり普及していない • 免疫チェックポイント阻害剤は膵癌で使われない 膵癌診療ガイドライン 2019年版(2020年5月部分改訂)

21.

がん遺伝子パネル検査とは 何ですか?

22.

がん遺伝子パネル検査を使うと何ができるか • DNA等を大規模に解析できる次世代シークエンサーを用いて 高速・効率的・網羅的にがん遺伝子異常を解析することが可能となった • がんに関連する数百の遺伝子をセットにして一括解析し 治療薬の候補を探すことを可能にする(検査の標準化) • MSI(マイクロサテライト不安定性)やTMB(腫瘍変異量)、 多くのコンパニオン診断(EGFR,ALK,KRAS,HER2等)も評価 • 変異データは臨床的意味づけ(アノテーション)の過程を経て 遺伝子変異の解説や臨床試験情報とともに解析レポートを作成

23.

2018年12月 がん遺伝子パネル検査 製造販売承認 日本経済新聞 2018.12.13

24.

2019年6月 がん遺伝子パネル検査 保険承認 毎日新聞 2019.5.30

25.

保険承認された2つのパネル検査システム それぞれの検査に特色がありますので 病気の状態や検査目的に合わせていずれかの がん遺伝子パネル検査を選択します

26.

FoundationOne CDx の検出遺伝子 FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル 添付文書より

27.

個別化された標的治療は予後を改善させる可能性を持つ • 膵癌でゲノム選択的治療を 受けた群はOSが良好であった • 臓器による差異はあるものの 今後重要性は増してゆく Lancet Oncol 2020, 508-518

28.

がんゲノム医療の提供体制は どのようになっていますか?

29.

がんゲノム医療を行うことができる指定病院 • がん遺伝子パネル検査を保険診療で行うための認定施設 • がんゲノム医療中核拠点病院(全国で12カ所) • がんゲノム医療拠点病院(33カ所) • がんゲノム医療連携病院(161カ所) 京都大学 滋賀医大 滋賀県立総合病院 京都府立医大病院 京都医療センター 京都第一・第二日赤 京都桂病院、など 奈良医大 天理よろず相談所病院 大阪大学 近畿大学 大阪国際がんセンター 連携病院は多数あり 和歌山医大 2020年4月1日現在

30.

パネル検査の対象となる範囲 固形がんで 造血器腫瘍は不可 根治切除不能な進行・再発病変で 標準治療終了後 または終了見込みの がん OR 原発不明癌 OR 標準治療のない 希少がん 検査後にも薬物療法に耐える全身状態 (2〜3ヶ月後にもPS 0〜1が保てることが期待できる) DNA抽出可能な検体があるか、今後採取できる 根治切除可能な病変は不可 パネル検査結果説明までに2ヶ月、 治験参加にさらに1ヶ月程度必要 2〜3年以内に採取された検体で 量もある程度必要

31.

がん遺伝子パネル検査の 実施の流れは どうなっていますか?

32.

パネル検査だけでは治療につなげることができない • パネル検査は変異を起こした遺伝子名とその部位しか教えてくれない。 • パネル検査の結果の臨床的な意味やどのような治療が適用可能かは、 専門家による解釈が必要となる。 • がんゲノム医療中核拠点病院での エキスパートパネル(専門家会議)で検討を行う。 連携病院はWebカンファレンスとして参加する。

33.

エキスパートパネル(専門家会議)とは • パネル検査結果の「臨床的意義」、「エビデンスレベル」、 「治療薬の選択」、「二次的所見開示の必要性」などの検討 • ①担当医、②がん薬物療法の専門医、③病理医、④臨床遺伝専門医、 ⑤遺伝カウンセラー、⑥分子遺伝学かがんゲノム医療の専門家、 ⑦データ解析技術者の参加が要件 (中核拠点病院の要件でもある) • 中核拠点病院で開催、連携病院はWeb会議システムで参加 • 治験情報などはC-CAT(CKDB)や検査会社から取得 CKDB : cancer knowledge database • 現在は12箇所の中核拠点病院が独自の方法で開催しているが、今後は標準化ワー キンググループが内容の整備を行う

34.

がんゲノム医療の検体と検査の流れ 当院が担う部分 検査前には 検査の意義や有用性 およびその限界に ついて理解して 頂く必要があります 正確な検査のため DNAを抽出する 手術・生検検体は 質・量ともに良好で ある必要があります 中核拠点病院で開かれる エキスパートパネルは ・主治医(担当医) ・がん薬物療法専門医 ・臨床遺伝専門医 ・病理医 ・分子遺伝学の専門家 ・バイオインフォマティシャン (データ解析技術者) の参加が必須要件です

35.

がん遺伝子パネル検査の 検査費用は どの程度必要ですか?

36.

検査の流れ • がん遺伝子パネル検査は保険適用となり1〜3割の自己負担 • 高額療養費制度の対象にもなります • ただし検査終了後の治療費は原則として保険適用となっていません • 治験や臨床試験、患者申出療養以外で未承認薬を使用する場合は全額自己負担 • 高額療養費制度の対象にもなりません • 月額30〜100万円と治療費が非常に高額になる可能性があることに注意

37.

保険償還には、さらに細かい条件も • 実施は がんゲノム医療中核拠点病院 や がんゲノム医療連携病院 のみ 滋賀県では連携病院は 当院 と 滋賀医科大学附属病院 (2019年10月現在) • 患者1人につき1回限り • 検査結果をエキスパートパネルで検討する必要あり • 検査結果を書面で患者に説明すること • 保険点数は56,000点 (検査実施料 8,000点+判断説明料 48,000点) 判断説明料は結果説明時に算定できる =1ヶ月後の結果説明時に患者死亡の場合は算定不可 (DPC病院に入院中の場合算定できない) 検査会社に42万円+消費税、中核拠点病院に5万円 採血および病理検体処理コスト、相談支援センターや外来の人件費

38.

パネル検査後の 治療薬へのアクセスは どのようになっていますか?

39.

実際に治療につながる変異が見つかる頻度は? • NCCオンコパネル、およびその他のパネルからも 遺伝子変異が見つかる可能性は決して低くないが 実際に治療につながる変異は限られる • 米国MSK-INPACT :何らかの治療標的あり 36% 臨床試験登録 11% • 国がんTOP-GEAR 2nd :何らかの治療標的 59% 治療登録 13% • 京大病院 1%? • 治療につながる変異が全く見つからないケースも • 腺癌や扁平上皮癌に比べて未分化癌は厳しいかもしれない • 肉腫などは治療候補が見つかりにくい Nat Med 2017. 703-713 Cancer Sci 2019. 1480-1490

40.

遺伝性腫瘍や 二次的所見(偶発的所見)とは 何ですか?

41.

がん遺伝子検査によって偶然に 遺伝性腫瘍の原因遺伝子異常が判明することがあります • 多数のがん関連遺伝子を網羅的に調べることで がんに生じた遺伝子の異常(体細胞系列)だけではなく 親から受け継いだ遺伝子(生殖細胞系列)に発がんの原因が判明することがあります BRCA1/2 HBOC 遺伝性乳癌卵巣癌症候群 • 乳癌、卵巣癌、膵癌、前立腺癌に関与 • オラパリブなどのPARP阻害剤が有望 ミスマッチ 修復遺伝子 リンチ症候群 • 大腸癌、子宮体癌、胃癌などに関与 • MSI-Hとなり免疫チェックポイント阻害剤が有望 TP53 リ・フラウメニ症候群 MEN1/2 多発性内分泌腫瘍症 • 乳癌、骨軟部腫瘍、急性白血病、副腎癌に関与 • MEN1は下垂体腫瘍、膵腫瘍、副甲状腺腫瘍に関与 • MEN2は甲状腺髄様癌、褐色細胞腫などに関与

42.

がんゲノム医療を行う病院は 遺伝カウンセリングの体制が整備されています • がん遺伝子パネル検査やHBOC診療などの遺伝性腫瘍を行う医療機関は 認定遺伝カウンセラーなどによる遺伝カウンセリングの体制を整備しています • 若年発症や濃厚な家族歴を有するケースは特に注意が必要ですが、 家族歴がないケースもあり注意が必要です • 事前に開示を希望するかどうかを確認しておきます(知る権利と知りたくない権利) • 本人や家族にとって今後の健康管理に有益な情報をお知らせする 家族も含めた精神的なケア、長期的なサーベイランス(検診)が必要となることも

43.

がん遺伝子検査で見つかる遺伝子のうち 対応が必要な遺伝子異常があれば介入を行います • 検出された遺伝子異常がACMG59リスト(1や小杉班リスト(2に掲載されている場合は Clinvarなど各種データベースで病的意義のあるものかどうかを確認し、 必要があれば患者や家族に追加検査(確定診断検査)を提案します。 1) Genet Med 2017. 249−255 2) 『ゲノム医療における情報伝達プロセスに関する提言』2019年12月

44.

膵癌診療ガイドラインはインターネット上で公開されています • 日本膵臓学会から膵癌診療の指針として発 刊されているガイドライン • 2019年に3年ぶり改訂 • インターネット上に無償公開されている http://www.suizou.org/gaiyo/guide.htm