公共交通オープンデータの普及戦略と7年目の現在地

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March 07, 23

スライド概要

2023年3月7日開催の北海道 自治体向けデータ利活用セミナー「データの賢人大集合 〜きたと考えるオープンデータのこれから〜」での講演資料です。

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伊藤昌毅 東京大学 大学院情報理工学系研究科 附属ソーシャルICT研究センター 准教授。ITによる交通の高度化を研究しています。標準的なバス情報フォーマット広め隊/日本バス情報協会

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1.

北海道 自治体向けデータ利活用セミナー 「データの賢人大集合 〜きたと考えるオープンデータのこれから〜」 2023年3月7日 札幌市 Hokkaido xStation01 公共交通オープンデータの普及戦略と 7年目の現在地 東京大学 大学院情報理工学系研究科 附属ソーシャルICT研究センター 日本バス情報協会 代表理事 伊藤昌毅

2.

伊藤 昌毅 • • • • • 東京大学 大学院情報理工学系研究科 附属ソーシャルICT研究センター 准教授 静岡大学 土木情報学研究所 客員教授 専門分野 – – ユビキタスコンピューティング 交通情報学 – – – – – – – – 静岡県掛川市出身 2002 慶應義塾大学 環境情報学部卒 2009 博士(政策・メディア) 指導教員: 慶應義塾大学 徳田英幸教授 2008-2010 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別研究助教 2010-2013 鳥取大学 大学院工学研究科 助教 2013-2019 東京大学 生産技術研究所 助教 2019-2021 東京大学 生産技術研究所 特任講師 2021-現在 現職 – 運行管理者(旅客) 経歴 資格 2

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公共交通(主にバス)のオープンデータ整備が進行中 バス業界において「標準化」「オープン化」が同時に進行中 路線 時刻 運賃 リアルタイム 「標準的なバス情報フォーマット」(世界標準のGTFS互換)でデータ整備 乗換案内・MaaS サイネージ・印刷物等 交通分析・計画 6

4.

2014年〜 静岡県でコミュニティバスのオー プンデータ化の取り組み • 県庁、市役所、地元IT企業等とGTFS、GTFSリア ルタイムによるオープンデータ化を実現 – Google Mapsへ提供可能に • アイデアソン、ハッカソンで地域でのデータ活用 を目指す

7.

2019年2月:90 2019年7月:126 10 21年1月 20年10月 20年7月 20年4月 20年1月 19年10月 19年7月 19年4月 19年1月 18年10月 18年7月 18年4月 2018年11月:30 18年1月 2018年7月:23 17年10月 17年7月 事業者数 350 300 250 200 150 100 50 0

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本年も順調にオープンデータが増加 700 600 500 400 300 200 100 0 オープンデータ提供事業者数

9.

GTFSリアルタイム(バスロケ)提供も増加中( 57事業者) • 便ごとのバス停通過時刻、緯度経 度情報などをリアルタイム公開 – Protocol Buffer形式 • 混雑情報も提供可能 – 2020年より宇野バス、横浜市交通局が対応

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特徴1: オープン

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オープンデータとして自社などのWebページで公開 • Webページからデータを誰でもダウンロード出来るように

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オープンデータから様々なアプリが開発される • 大企業、ベンチャー−企業、個人がアプリ開発

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特徴2: 標準化

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GTFS形式 • 世界で広く使われる形式 • 乗換案内に必要な情報(バス停・駅+路線+時刻表+運賃)をまとめて格納 したファイル形式 バス停/駅+路線 時刻 運賃

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Google Mapsへの掲載 • GoogleはGTFS形式によるオープン データを推奨 – ほぼ選り好みせずデータを掲載 – 検索の統計情報も公開 • 乗換案内に掲載されていない自治 体やバス事業者が利用促進のため にデータ整備 • 訪日外国人が利用するのはGoogle Maps

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「駅すぱあと/Yahoo!乗換案内」がオープン データを採用 • オープンデータ化されたバスデータを経路探索に採用 https://ekiworld.net/personal/app/spec/info.html?style=pc

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Moovitが日本のデータに対応 • イスラエルのベンチャー企業が開発するMoovitが山梨県GTFSを採用

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サイネージでの活用

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特徴3: 行政も民間も

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民間も公共も揃ってオープンデータ • 民間 – 例:道南バス、十勝バス、富山地鉄バス、両備バス • 公営 – 函館市電、青森市営バス、都営バス等々 • コミュニティバス(主に自治体が運営) • ただしJRなど鉄道のオープンデータ化には高い壁がある

21.

戦略1:「公共交通(バス)」に絞る

22.

乗換案内サービスで検索出来ますか? 駅すぱあと Yahoo!乗換案内 駅探 乗換案内 NAVITIME ジョルダン 乗換案内 Google Maps Apple Maps

23.

地域の公共交通は乗換案内に出てこない

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地域の公共交通は乗換案内に出てこない データ整備にはコストが掛かるため 利用者数が少ない地域のバスにまで 手が回らない 交通事業者が自ら 標準形式のオープンデータを用意して 乗換案内に提供する

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海外の事例: 交通事業者がオープンデータを提供 • 路線図、時刻表、リアルタイム車両位置情報などのデータの利用を開放 • 自由に使ってもらうことで、アプリの作成や工夫を凝らした印刷物などの情 報提供を促進 • アメリカ、ヨーロッパでは当たり前になりつつある

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戦略1:「公共交通(バス)」に絞る ↓ 対象を絞ったことで課題や効果が明確に

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戦略2:国土交通省のお墨付き

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バス情報の効率的な収集・共有に向けた 検討会(2016年12月〜2017年3月) • 事務局: 総合政策局公共交通政策部交通計画課 • 外部委員 – – – – – – – – – – 伊藤昌毅 東京大学生産技術研究所(座長) ー川雄一 株式会社構造計画研究所 伊藤浩之 公共交通利用促進ネットワーク 井上佳国 ジョルダン株式会社 遠藤治男 日本バス協会 櫻井浩司 株式会社駅探 篠原雄大 株式会社ナビタイムジャパン 丹賀浩太郎 株式会社工房 別所正博 公共交通オープンデータ協議会 山本直樹 株式会社ヴァル研究所

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各社のエンジニアが集まった ワーキンググループを開催 • 東大生産技術研究所に 各コンテンツプロバイ ダのエンジニアなどが 集まり、バスデータの フォーマットについて 集中討議 • データ項目のひとつひ とつを徹底議論

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2017年3月31日 「標準的なバス情報フォーマット」公開

31.

2019年3月 標準的なバス情報フォーマット 第2版 • GTFSリアルタイムをベースにバスロ ケデータの標準化にも対応 • GTFS-JPの改定作業 – 2年経って40項目以上の検討、見直し事項が蓄 積 • 国交省バス情報の静的・動的データ利 活用検討会 – バスロケ事業者も委員に

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戦略2:国土交通省のお墨付き ↓ 関係者の理解や賛同を得やすく

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戦略3:無料ツールや情報の充実

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フリーのデータ作成ツール開発・提供・利用支援 • 西沢ツール – 西沢明氏開発 – 約40+自治体・事業者が利用 • 見える化共通入力フォーマット – 伊藤浩之氏開発 • 当初は三重県のプロジェクトで利用 – 約33自治体・事業者が利用

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その筋屋 • 無償配布されているダイ ヤ編集システム • プロ向けシステムと同等 の機能を備え、バス事業 の運営に利用出来る • GTFS/標準的なバス情報 フォーマット出力機能を 備える – 42事業者がオープンデータ公 開 http://www.sinjidai.com/sujiya/

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公共交通オープンデータの海外の状況を報告 • 2015年末に記事公開

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QGIS + GTFS-Go • GTFSデータをオープンソー ス(無料)のGIS上で表示 • 行政職員向けの講習会を動画 配信中 – https://www.youtube.com/watc h?v=w2gFMyK67ws

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戦略3:無料ツールや情報の充実 ↓ 検索すると大量の情報が出てくる

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戦略4:コミュニティの継続的な支援

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標準的なバス情報フォーマット広め隊 • 標準的なバス情報フォーマット (GTFS-JP)データ整備に関わる有志 によるコミュニティ – 2017年夏頃から、国交省検討会の関係者らを 中心に自然発生的に誕生 – 普及に関わるツール開発、勉強会やイベント 開催、関係者への働きかけなどを継続的に実 施 – チャットなどによる活発な情報交換 • 参加者 – – – – – – 大学研究者 乗換案内サービスデータ整備担当 バス事業者向けツール開発者 公共交通コンサルタント 交通事業者職員 自治体職員 等 20名程度

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広め隊による講演会・講習会 • 県や運輸局が実施する勉強会に講師として登壇 • 事業者や自治体にツール導入を指南

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日本バス情報協会 設立! 準備メンバー • 西沢明(東京大学 空間情報科学研究センター 客員研 究員)※代表 • 伊藤浩之(公共交通利用促進ネットワーク) • 伊藤昌毅(東京大学 生産技術研究所 特任講師) • 井原雄人(早稲田大学スマート社会技術融合研究機 構) • 太田恒平(株式会社トラフィックブレイン) • 野津直樹(株式会社トラフィックブレイン) • 諸星賢治(MoDip/株式会社トラフィックブレイン) https://www.gtfs.jp/blog/preparatory-committee/

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戦略4:コミュニティの継続的な支援 ↓ 技術支援とともに、行政だけでは難しい継続 性を担保

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戦略5:お祭りで盛り上げる

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第3回交通ジオメディアサミット 〜東京2020の交通をITで支えるために〜 • 2018年9月25日(火) 東大生研 コンベンションホールにて 230名超の参加者 – 東京2020交通の実務と学のトップ × Google 乗換案内トップ × 国内経路検索3 社経営陣と考える東京オリンピック・パラリンピックの交通情報のあり方 – 路線バスオープンデータの最新情報

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公共交通オープンデータ最前線 in インターナショナルオープンデータデイ2019開催 • 2019年3月2日(土) 東大生研 にて • https://geomedia2020.peatix.com

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戦略5:お祭りで盛り上げる ↓ 苦労を分かち合いモチベーションに繋がる

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展開: バス事業者が前のめりに

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臨時便への対応 • お盆の日のみ走る臨時便を事 前に情報提供 • その日を設定した検索にだけ 案内される • Google Mapsはデータを送信 してからほぼ48時間以内で更 新されるらしい

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先進事例: 乗り場を含めたバス案内 • バス乗り場の位置や名称 まで含んだ案内を実現 • 事業者が必要と思うレベ ルの情報提供が可能

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GTFSリアルタイムで攻めの情報発信 • バスロケやアラートを標準フォーマットで積極公開、利便性向上へ

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展開: バス以外の交通へ

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標準的なフェリー・旅客船航路情報フォーマット • 国土交通省海事局内航課に より船舶向けデータフォー マット(GTFS互換)が策定 – 受託 ジョルダン株式会社

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展開: データ活用の拡がり

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市民発のアプリも登場 • Aa 青バスなう! https://sonohino-kibunshidai.org/aobus_now/ UnoMap https://play.google.com/store/apps/details?id=work.momizi.unomap&hl=ja

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オープンデータ活用ハッカソン • アプリ、乗り換え案内以外へも活用が検討される

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東京都小池知事も期待を表明 • 東京都交通局のバス・地下鉄デー タをAPIで提供した。 民間がデー タを使って新しいサービスを展開 でき、スタートアップに繋がる可 能性。 また住民がテクノロジを 活用して社会や地域の課題を解決 するシビックテックの取り組みに よりQoSを向上」 との言及 – 「ポスト・コロナを見据えた東京のDXの推 進に向けたオンラインシンポジウム」での 発言(2020年10月12日) https://www.youtube.com/watch?v=R_-CQIiVwpc 1:14:50 頃〜

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課題

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データの精度や網羅性

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現在流通しているデータ 精度はまちまち • 精度が低いとGoogle Maps が掲載しないことも – https://twitter.com/sujiya_sys tem/status/16008398808414 45382

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ダイヤ改正のたびに必要な更新

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2018年 10月1日のダイヤ改正は反映されていたか? • 減便になった8-33 遠鉄バス伊佐美線 17:45発で確認(10月26日 伊藤調べ) 未対応 対応済み Navitime Yahoo! 駅探 ジョルダン Google 駅すぱあと Apple

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これからの挑戦: コミュニティ主導から制度化へ

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制度化へ: 海外事例

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イギリス政府の路線バスオープンデータ • バス事業者が時刻表や運賃、ロケーション情報 をオープン化することを法的に義務化 – The Public Service Vehicles (Open Data) (England) Regulations 2020 に基づく – イングランドの政策にスコットランド、ウェールズも追従 • 全国一体的にデータ収集し複数のフォーマット でデータ公開 – 2020年12月 時刻表データ公開義務化 – 2021年1月 位置情報、運賃やチケット情報の公開義務化 – 2023年1月 乗り継ぎなど特殊な運賃・チケットについても 公開義務化 https://www.bus-data.dft.gov.uk

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The Bus Open Data System (BODS) • Ito World が DfT、 KPMGとともにシステム 開発 • CityMapper、Moovitな どのアプリがデータ利用 – 当初は別々にデータ収集して いたとのこと。役割分担 • 規模 – 250以上の事業者のデータ – 18,000台以上のバスの位置情 報(5〜30秒ごとに更新) https://www.bus-data.dft.gov.uk

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規制改革推進会議経済活性化ワーキング・グループ • 経団連からの提案(2021年12月8日) – 事業許可申請および変更認可申請手続きを電子化すること – 申請内容をマシンリーダブル、かつGTFS-JP(共通フォーマット)を活用した形式 とすること https://www8.cao.go.jp/kisei94 kaikaku/kisei/meeting/wg/econrev/211208/agenda.html

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MaaS推進も見据えたバス事業者の申請の オンライン化及びGTFS-JPの普及・促進 95 2022年6月7日閣議決定 規制改革実施計画より

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ぜひ自分事として 公共交通オープンデータに取り組もう