板書スライドの問題を解決する授業設計とは

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August 26, 15

スライド概要

2015PCカンファレンス(@富山大)の角南北斗の分科会発表スライドです。学生の「黒板写メ」の行為を通して、板書スライドとノート取り、それに関わる学びについて考察しています。

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関連スライド

各ページのテキスト
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2005: 目的と実践の符号を 〜ホームページ作成を例に 2006: 検索力ってどうよ 2007: ひとつ下のプレゼン。 2008: お料理のコツと情報教育 2009: 日記じゃないのよブログは 〜じぶんチャンネルのススメ 2010: 勝たないプレゼンテーションの学びかた 2011: 名刺デザインで学ぶプレゼンテーション 2012: スマホ時代のWeb教材制作アプローチ 2013 : 3分ではじめるお仕着せのe-Learningからの卒業 2014 : 授業外・教室外の学習を見据えた教材設計 2015 : 板書スライドの問題を解決する授業設計とは

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板書スライドとは プレゼンアプリで板書データを作成 ✴ PowerPointやKeynoteで作る スクリーンに常時投影&切り替え ✴ ちょうどこの発表みたいな形式です ✴ 設備のある教室(PC部屋)を講義でも利用

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板書スライドの利点 板書する時間や手間がなくなる ✴ 授業をテンポよく進められる スライドを使い回せる ✴ 他クラスや次回授業の復習、来年度にも 板書を資料として残せる ✴ 後で検証しやすく、授業の精緻化に役立つ

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板書スライドで陥りがちなこと スライドを早く切り替えがちになる。 授業展開が早くなりすぎる。 ✴ 板書を手書きすることによって、 自然と間が生まれていたことに留意すべき。 ✴ これは教師の実践の仕方も悪いのだが、 学生も対応策を持っている。

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出典: アプリマーケティング研究所 (女子高生にとって「パソコンの死」はいつ? 未だ40%がパソコンをつかう理由と 「授業中スマホいじり」の実態。原宿の女子高生110人アンケート。)http://appmarketinglabo.net/jk-deathofpc/

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板書写メの利点 板書を漏れなく正確かつ迅速に記録 特別な道具は不要 ✴ スマホだから常に持っている 写真データだから管理や運用も容易 ✴ 一箇所にまとまってるから、なくさない ✴ 友達にもすぐに送れるし、プリントもできる

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教師の言い分と、それへの返答 シャッター音が邪魔 ✴ 無音にするアプリがあるよ 撮られるのに慣れない ✴ よくわかるけど... 所詮は慣れでは それでは勉強にならない!! ✴ 正論っぽいけど、本当にそうなの?

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自身の授業で実践しつつ考えてみた

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対象となる授業 情報サービスに関する講義 ✴ 図書館司書の資格取得を目指す大学生向け 一斉講義形式がメイン 資料はスライド投影+教科書 ✴ 口頭説明だけでは学生には負荷が高い PC教室で実施

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学生がしていたこと スライドすべてを丸写しにする学生に 「時間がない」と言われた。 ✴ そりゃ時間がなくて当然である ✴ 黒板写メをする学生が目立たなかったのは 教師に配慮する意識があったのかも。

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資料は事後に配布することに 板書スライドはPDFにして 授業後にダウンロード形式で配布。 ✴ 授業用のサイトをJimdoで作成して、 ファイル置き場やリンク集として活用

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スライドを配布した結果 メモを一度も取らない人が大多数に ✴ 寝てる人はともかく、聴いている人もそう スライドが唯一の授業記録となり 学生の間では重宝される。 ✴ 授業を休んだ学生には喜ばれる ✴ 授業中に過去のスライドを見返す人が増える

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スライドの作り込みが加速 スライドがキーワードだけだと、 メモがなければ資料として機能しない。 読むだけでもある程度わかるよう スライドに説明文も盛り込むように。 ✴ スライドの分量と作成時間が急激に増加

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作り込んだスライドの欠点 スライドの資料完成度が上がるほど、 わざわざメモする必要がなくなる。 ツッコミの余地・余白のない資料は、 学生の思考の機会を奪いがち。 ✴ スライドツールは説得には向くが、 聴き手が途中で立ち止まって疑問を持ったり、 横道に逸れたりすることを妨げる。

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手書き板書で予想されること 一定量以下の板書であれば、 学生は必死になってノートに写す。 それが無理そうなら黒板写メをする ✴ いまの時代、もはや手書きノートは 最初から候補に考えないかもしれない。

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そもそもですね... 情報を取捨選択し加工することが ノート取りの生み出す学びなのなら... 手書きであれ黒板写メであれ、 丸写しは学びでないという意味で同じ。 ✴ 記録のためだけなら写メすら不要な作業

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ノートは取らなくてOK? 学生の理解度を確認するため、 簡単な確認テストを定期的に実施。 ✴ 専門用語を平易な言葉で説明させる(記述) ✴ 過去のスライドやネットを活用してOK

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確認テストの結果 多くの学生は説明文が満足に書けない ✴ ツギハギのコピペで意味が通らない文も多数 ✴ 書いた文にツッコミを入れるともう返せない ✴ 1行程度でも、ものすごく時間がかかる 理解の曖昧さに学生が自分で気づく ✴ 分かったつもりだった、という声が聞かれる

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教師は結果をどう捉えるか ただ聴くだけでは理解不十分のよう ✴ 平易な説明ができない背景には、 学生の文章説明スキルの不足もあるだろうが... 学生が自身の理解を深めるためには、 能動的に情報を扱うプロセスが必要。 ✴ その1つが「ノート取り」ではあるが、 やり方が分からないという学生は少なくない。

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ノート取りの実践への高い壁 そもそも「ノート取り」は高度な技術 ✴ ビジネスセミナーでも実践できる人は少数 高校までで身につくものなの? ✴ 「ノートにそのまま写せる板書は教師の義務」 ✴ 「最近の学生はノートも満足に取れない...」 授業内容と並行して扱うのは至難の業

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まずは自覚してもらうことから ノートの取り方は無理に教えない ✴ 記録という結果だけに価値があるのではなく、 そのプロセスに学びがあると思えないと、 丸写しのノート作業はなくならない。 聴くだけではダメかも?と思わせ、 次の工夫は個々の学生に任せる。

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教師が授業でしたこと(1) 自分の理解度を確認できるような タスクを授業に盛り込む。 ✴ 専門用語を平易な言葉で説明してもらう ✴ 授業とは違う切り口で複数の概念を比較させる ✴ 教師の話の中に問いかけを用意する

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教師が授業でしたこと(2) 教科書もWebも参照資料として扱う ✴ 教科書を端から「読んであげる」スタイルは 聴くだけの受け身の姿勢にさせやすい。 ✴ 何を学ぶために読むのか毎度意識してもらう 教科書にない話、正解のない話も 授業で積極的に扱っていく。 ✴ メモ取りに意識が向きそうなポイントを作る

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教師が授業でしたこと(3) レポート課題は理解重視を明確に ✴ 記述量を求めても力がないと書けないから、 学生を何かのコピペに走らせてしまう。 ✴ 難しい言い回しを多用しないよう条件を付け、 本人も意味不明な文章になるのを防ぐ。 ✴ コピペで体裁や分量を整えても評価されないと 学生が感じるような条件にする。

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教師が授業でしたこと(4) 教師への質問の機会を増やす ✴ タスクに取り組む時間を授業時間に用意し、 学生と話をする機会を増やした 授業時間外でも質問できる環境を ✴ Googleフォームを利用した質問ページで いつでも質問や要望が伝えられるように。 ✴ 質問には翌週の授業でフォローする。

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学生の反応 学生がノートを取るようになった... というわけではない(さすがに) 質問をする学生は増えた ✴ 教師は学生とのやり取りが増えたことで、 どこが難しいのかを知る手がかりも増えた。

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このテーマを改めて考える

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写メは記録でしかない 記録としてなら写メは効率的な手段 手書きか写メかの違いよりも、 それが単なる記録行為かどうかが重要。

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写メ禁止!の前に 学生が写メをしたくなるような状況を 教師が作り出していないだろうか。 ✴ 記録が困難な情報提示になっていないか? ✴ 学生が「記録=学び」だと勘違いするような 授業内容になっていないか?

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記録と学びの関係 記録が自然に学びになる時代の終焉 ✴ 手書きしか選択の余地がなかった時代は、 その過程で情報の整理法が身につくことも 少しは期待できたのかもしれない。

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記録と学びの関係 写メに限らず記録が容易な現代は、 記録行為と学びを分けて捉え、 学びを実現する方法を再考することが、 いっそう重要なのではないか?

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