価値評価構造の階層レベルの異なるデザインコンセプトの表現とユーザの期待感の関係―ICT機器に対する予期的UXを高める価値伝達方法についての一考察

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June 26, 23

スライド概要

第70回日本デザイン学会春季研究発表大会
講演番号:5D-04
原稿(pdf):https://researchmap.jp/d_the_rhythm/presentations/42573540/attachment_file.pdf

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大阪公立大学生活科学部居住環境学科デザイン人間工学研究室(土井俊央研究室)

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各ページのテキスト
1.

2023/6/25 第70回日本デザイン学会春季研究発表大会 デザイン評価 価値評価構造の階層レベルの異なるデザイン コンセプトの表現とユーザの期待感の関係 ―ICT機器に対する予期的UXを高める価値伝達方法についての一考察― 土井 俊央(大阪公立大学),土井 彩容子(大阪工業大学,サイボウズ) 1

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UXデザインのアプローチ Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University より良いユーザエクスペリエンス(UX)を提供するためのデザインアプローチの 重要性が業種を問わず広く認識されている <主なデザインプロセス>(安藤,2016) • 提供すべき価値の発見 • 価値を提供する方法の実現 • ユーザへの価値伝達 利用前のユーザに対する価値伝達に関する研究は少ない • UXデザイン分野の先行研究:UXの概念の理解・整理,UXの測定・評価方法,UXデザインの 実践などに焦点が当てられていることが多い 2 /21

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価値伝達と予期的UX Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 体験価値をいかにユーザに伝えるかは,予期的UXに関連する重要な要素である • 伝達された価値をもとに利用前にどんな想像・期待・予測をするか? しかし,予期的UXに関する知見は少ない 累積的UX 一時的UX 予期的UX 体験中の印象 • どんな価値を伝達すべきか? • どうすれば予期的UXは高まるか? • そもそも予期的UXはどうあればよいのか? 利用期間全体の体験の総合的な回想 エピソード的UX 特定の体験の内省 利用期間 非利用期間 対象についての情報に 基づく体験の予測・期待 対象を認知 利用開始 時間 現時点 3 /21

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階層構造で表現される体験価値 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University UXデザインにおいて体験価値やコンセプトは階層構造で表現されることが多い • ユーザの価値評価構造(評価グリッド法),上位下位関係分析など 抽象 ユーザ自身のあり方に関する 本質的なニーズ 情緒的ベネフィット 長時間快適に仕事ができる 機能的ベネフィットによって感じ られるユーザの主観的な効用 目的 機能的ベネフィット 長時間キーボードを使っても 疲れない 製品属性から直接導かれる 客観的・機能的な効用 手段 製品属性 キーボードが打ちやすい 製品の物理的特徴 目的 手段 目的 手段 具体 本質的価値 ビジネスの生産性を高める 4 /21

5.

階層のレベルと価値伝達 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University どの階層の情報をユーザに伝えるかで,ユーザの想定・期待は変わるのでは? • 上位階層の情報:抽象的すぎるためどういった機能によってそれが実現されるかが わかりにくいが,もたらされる体験はイメージしやすいのでは? • 下位階層:具体的な製品仕様やそこから得られる利点はわかりやすいが, どういった体験がもたらされるのかという利用シーンのイメージがしにくいのでは? 製品の特性やユーザの製品関与度によっても異なることが予想される • 製品の導入期と成熟期では好ましい広告メッセージが異なる(上田,2010) • 「購買検討時の情報処理形式(思考型・感情型)」「関与の高低」の2軸による 2×2マトリクス(FCBグリッド)における各象限では異なるコミュニケーション戦略が 適している(Vaughn, 1986) 製品のタイプによって予期的UXを高めるためにユーザに訴求すべき 価値階層レベルは異なるのでは? 5 /21

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本研究の目的 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 価値表現の階層構造に着目し,どの階層の価値表現でデザインコンセプトを 伝達するとユーザの期待感が高まるのか複数の製品カテゴリにおいて調査した • 利用者への浸透度合,購買検討時の情報処理方式,製品関与度の影響の可能性があるため, これらの影響による違いについて検討した 製品タイプ別に,予期的UXを高めるためにユーザに訴求すべき価値階層レベルを 考察する • ユーザへの価値伝達のためのデザインコンセプトの表現方法についての基礎的知見 6 /21

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研究仮説 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University H1:一般によく知られ,ユーザが利用方法をイメージしやすい製品の場合は, より具体的・客観的なコンセプト表現が好まれる • ユーザが利用方法や利用シーンといった具体的な体験をイメージしやすい場合と, そうでない場合には期待感が高まるコンセプト表現は異なるのでは? H2:思考型の製品では客観的な機能,感情型の製品では利用シーンの体験が イメージできる主観的な便益が好まれる • 感情が重視されるような製品の場合(例えば家庭生活の中で使う,自身の趣向が反映される製品)は, 感情面も含めた主観的な体験の良さが求められ,利用シーンがイメージしやすい主観的な表現において 期待感が高まるのでは? • 仕事で使う機器のように有効さや効率などを熟慮して選ぶ製品の場合は, 客観的に示された機能による表現がより好まれるのでは? 7 /21

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方法:実験概要 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 実験参加者・対象製品 • 52名(男性31名,女性19名,平均:38.94,SD:6.30) • FCBグリッドでは多岐にわたる製品を対象に分類をしているが,製品品目が大きく異なるとそ れによる影響があると思われるので,ICT機器のみを対象とした 課題 • 「ある製品の購入を検討しており,そのために色々な製品を見比べている」状況を想定 • 1つの製品カテゴリにつき,4つの製品カードを提示 • イメージ写真はすべて同じで,異なるデザインコンセプトを表記 » (A) 製品属性,(B) 機能的ベネフィット,(C) 情緒的ベネフィット,(D) 本質的価値 • 評価が高いと感じたものから順に,1位~4位に順序付け » 有用性,利便性,魅力性,利用意欲の観点 8 /21

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方法:提示した製品カードの例 フォルダブルPC (A) 製品属性 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University フォルダブルPC (B) 製品の特徴 製品の特徴 • 画面を折りたたみできる • 大画面 • タッチペンの感度が良い フォルダブルPC (C) 情緒的ベネフィット 機能的ベネフィット • 色々な使い方ができる(本を読むス タイル,ノートPCスタイル,大画 面タブレットなど) • 大画面を持ち運びしやすい(小さく 運べて,大きく使える) • 画面を見ながらメモを書ける • ペンによる手書きがしやすい フォルダブルPC (D) 本質的価値 製品の特徴 • どこでもスマートに仕事ができる • カバンを選ばず快適に持ち運べる • デスクがなくても使える • 移動時間も有意義に過ごせる • 紙の本や新聞のように見開きで大 きな紙面を読める 製品の特徴 • 創造的な働き方ができる 9 /21

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方法:実験デザイン Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 実験要因 1. デザインコンセプトの表現(製品属性,機能的ベネフィット,情緒的ベネフィット, 本質的価値,の4水準) 2. 製品カテゴリ(フォルダブルPC,ノートPC,スマートスピーカー,スマートフォンの 4水準) 対象製品 導入期の製品 普及品 主にビジネス用途 (思考型) フォルダブルPC ノートブックPC 主に家庭用途 (感情型) スマートスピーカー スマートフォン 10 /21

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方法:評価指標 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 1. 予期的UXの良さを推定する指標 • 製品の3属性(Null, 1998):有用性・利便性・魅力性 • 利用意欲 • 同順位を認めない順位付け 2. 利用方法をどの程度イメージできたか? • H1の検証のために利用 • 5段階リッカート尺度 3. ICT機器に対する製品関与度 • 安藤の提案している製品関与度尺度を5段階リッカート尺度実施 • FCBグリッドより,実験結果に影響を与える可能性が考えられたため,共変量として測定 11 /21

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解析方法 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 1. データの変換 • 正規化順位法によって,各製品における有用性・利便性・魅力性・利用意欲の順序尺度データ を間隔尺度の正規スコアに変換 2. 条件間の差異の分析 1. 実験要因(デザインコンセプトの表現,製品カテゴリ)と共変量(製品関与度)の影響 » 反復測定二元配置共分散分析(ANCOVA)を実施 ⇒ 単純主効果検定によって詳細な条件間の差異を把握 2. 各製品カテゴリの利用イメージのしやすさ » 反復測定一元配置分散分析 12 /21

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結果:利用方法がどの程度イメージできるか Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University **: p<0.01 ** • フォルダブルPC・スマートスピーカーに比 べて,ノートPC・スマートフォンの方が有 意に利用方法をイメージしやすい ** ** ** イメージしやすい ノートPC スマートフォン イメージしにくい フォルダブルPC スマートスピーカー Ease of imaging usage 5 4 3 2 1 Foldable PC Notebook PC Smart speaker Smartphone 13 /21

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-1.5 Foldable PC Notebook PC Smart speaker ** ** ** Intrinsic value ** Emotional benefit Functional benefit ** ** ** ** ** Product attribute Intrinsic value Emotional benefit ** ** ** ** ** Functional benefit Product attribute ** Intrinsic value ** Emotional benefit ** Functional benefit * Product attribute ** ** Intrinsic value 2 Emotional benefit Functional benefit • 共変量(製品関与度)に有意な効 果は認められなかった. 1.5 Product attribute • 本質的価値の評価はすべての製品 で低かった ⇒ 抽象的過ぎて具体的 なイメージやベネフィットが理解 できなかった. Normalized score 代表的な結果・考察:魅力性(1)全体的傾向 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University ** 1 0.5 0 -0.5 -1 Smartphone 14 /21

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代表的な結果・考察:魅力性(2)導入期 - 普及品 2 1.5 • ノートPCとスマートフォン:製品 属性の評価が最も高く,情緒的ベ ネフィットの評価は低かった. ** ** 0.5 0 -0.5 Foldable PC Notebook PC Smart speaker Intrinsic value Emotional benefit Functional benefit Product attribute Intrinsic value Emotional benefit Functional benefit Product attribute Intrinsic value Emotional benefit Functional benefit Product attribute Intrinsic value -1.5 Emotional benefit -1 Functional benefit • 利用方法をイメージしやすい製品 では,より具体的な情報が好まれ ると考えられる. • 導入期の製品の場合,製品属性だ けでは具体的な利用イメージが湧 かないので,利用シーンをイメー ジしやすい表現が好まれたと思わ れる. ** ** ** ** スマートフォン ** ** ** ** ** スマートスピーカー ** ** ** ** ** ノートPC ** ** * フォルダブルPC Product attribute 考察 ** 1 Normalized score • フォルダブルPCとスマートスピー カー:製品属性の評価は低かった. ** Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University Smartphone 15 /21

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代表的な結果・考察:魅力性(3)ビジネス - ホーム 2 • ビジネス用途では機能的ベネ フィット,家庭用途では情緒的ベ ネフィットが好まれると思われる. ** ** ** ** ** ** スマートフォン ** ** ** ** ** スマートスピーカー ** ** ** ** ** ノートPC ** ** * フォルダブルPC 機能 0.5 情緒 0 情緒 機能 -0.5 Foldable PC Notebook PC Smart speaker Intrinsic value Emotional benefit Functional benefit Product attribute Intrinsic value Emotional benefit Functional benefit Product attribute Intrinsic value Emotional benefit Functional benefit Product attribute Intrinsic value Emotional benefit -1.5 Functional benefit -1 Product attribute 考察 ** 1 Normalized score • フォルダブルPC(ビジネス)とス マートスピーカー(ホーム)の比 較:フォルダブルPCでは機能的ベ ネフィット,スマートスピーカー では情緒的ベネフィットの評価が 高かった. • ノートPC(ビジネス)とスマート フォン(ホーム)の比較:類似す る結果だが,機能的ベネフィット ではノートPC,情緒的ベネフィッ トではスマートフォンの評価が高 かった. 1.5 ** Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University Smartphone 16 /21

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Foldable PC Notebook PC Smart speaker Smartphone -1.5 -1.5 Foldable PC Notebook PC Smart speaker Intrinsic value Emotional benefit Functional benefit Product attribute ** ** ** ** ** Intrinsic value ** ** ** ** ** Emotional benefit 利便性 Functional benefit Product attribute -1 Intrinsic value 0.5 Emotional benefit 0.5 ** ** ** ** ** ** Functional benefit 1 Product attribute 1 Intrinsic value 1.5 Emotional benefit ** Functional benefit -0.5 2 Product attribute 0 Normalized score **: p<0.01, *: p<0.05 ** ** ** Intrinsic value ** Emotional benefit Functional benefit ** ** ** ** ** Product attribute Intrinsic value ** ** ** ** ** ** Emotional benefit 有用性 Functional benefit Product attribute Intrinsic value ** Emotional benefit ** Functional benefit * ** Product attribute ** ** Intrinsic value 2 Emotional benefit Functional benefit 1.5 Product attribute Normalized score 結果:予期的UXに関する指標の傾向 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 有用性・利便性・魅力性・利用意欲のいずれも同じ傾向であった **: p<0.01 , *: p<0.05 ** ** ** ** * ** 0 -0.5 -1 Smartphone 17 /21

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-1.5 Foldable PC Notebook PC Smart speaker Smartphone -1.5 Foldable PC Notebook PC Smart speaker Intrinsic value Emotional benefit Functional benefit Product attribute ** ** ** ** ** Intrinsic value Emotional benefit 利用意欲 ** ** ** ** ** Functional benefit Product attribute -1 Intrinsic value 0.5 ** Emotional benefit 0.5 ** ** Functional benefit 1 ** Product attribute 1 ** Intrinsic value -0.5 2 Emotional benefit 1.5 Functional benefit ** Product attribute 0 Normalized score **: p<0.01, *: p<0.05 ** ** ** Intrinsic value ** Emotional benefit Functional benefit Product attribute ** ** ** ** ** Intrinsic value ** ** ** ** ** Emotional benefit 魅力性 Functional benefit Product attribute ** Intrinsic value ** Emotional benefit ** Functional benefit * Product attribute ** ** Intrinsic value 2 Emotional benefit Functional benefit 1.5 Product attribute Normalized score 結果:予期的UXに関する指標の傾向 Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 有用性・利便性・魅力性・利用意欲のいずれも同じ傾向であった **: p<0.01, *: p<0.05 ** ** ** ** * ** 0 -0.5 -1 Smartphone 18 /21

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考察:H1について Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 実験結果からの知見 • 普及品:製品属性が好まれる • 導入期の製品:より利用シーンがイメージしやすい機能的・情緒的ベネフィットが好まれる 先行研究からの知見 • 製品についての想像がしやすいものほど製品にポジティブな評価を行う(Zhao et al., 2007) • 心理的距離が近い場合は属性による訴求,心理的距離が高い場合はベネフィットによる訴求の 説得力が高まる(Hernandez et al., 2015) H1は支持されたと考えられる • ユーザが利用方法をイメージしやすい製品の場合は, より具体的・客観的なコンセプト表現を好む 19 /21

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考察:H2について Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University 実験結果からの知見 • 主にビジネス用途(思考型):機能的ベネフィットのスコアが高い • 主に家庭用途(感情型):情緒的ベネフィットのスコアが高い 先行研究からの知見 • 高関与・思考型の製品の消費者行動はまず「Learn」であるのに対して,高関与・感情型の製 品の場合はまず「Feel」がある(Huang and Lin, 2022) H2は支持されたと考えられる • 思考型の製品では客観的な機能, 感情型の製品では利用シーンの体験がイメージできる主観的な便益が好まれる 20 /21

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まとめ Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University ユーザの期待感を高める価値伝達方法として,デザインコンセプトの表現方法や 製品の利用方法のイメージしやすさが製品利用前の主観評価に与える影響を調査 • 価値評価構造の階層が異なる4つの条件(製品属性,機能的ベネフィット,情緒的ベネフィッ ト,本質的価値)における,有用性・利便性・魅力性・利用意欲を比較 得られた主な知見 • 利用方法がイメージしやすい製品については製品属性の評価が高く,そうでない製品は機能的 ベネフィットまたは情緒的ベネフィットの評価が高い • 主として家庭用途の製品では情緒的ベネフィットの評価が高く, 主としてビジネス用途の製品では機能的ベネフィットの評価が高い 21 /21

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ご清聴ありがとうございました 土井 俊央(どい としひさ) • 大阪公立大学 生活科学研究科 居住環境学講座 デザイン人間工学研究室 • 講師 • tdoi@omu.ac.jp • http://toshihisadoi.com/index.html Design Ergonomics Lab. Osaka Metropolitan University