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October 23, 21
スライド概要
八元数のはなし @第22回日曜数学会 - ニコニコ動画
https://www.nicovideo.jp/watch/sm39602571
第22回日曜数学会
https://live.nicovideo.jp/watch/lv334119867
https://usami-k.github.io/
八元数のはなし 何を「数」と呼ぶのか? 宇佐見 公輔 2021 年 10 月 23 日 1/14 宇佐見 公輔 八元数のはなし
数の拡張 普通の数の拡張 自然数 ℕ 整数 ℤ 有理数 ℚ 実数 ℝ 複素数 ℂ さらなる数の拡張 四元数 ℍ 八元数 𝕆 2/14 宇佐見 公輔 八元数のはなし
複素数と四元数 複素数 𝑎0 + 𝑎1 i とあらわされる数(𝑎𝑖 ∈ ℝ)。 i2 = −1 四元数 𝑎0 + 𝑎1 i + 𝑎2 j + 𝑎3 k とあらわされる数(𝑎𝑖 ∈ ℝ)。 i2 = j2 = k2 = −1 ij = −ji = k, jk = −kj = i, ki = −ik = j 3/14 宇佐見 公輔 八元数のはなし
八元数 八元数 𝑎0 + 𝑎1 e1 + 𝑎2 e2 + 𝑎3 e3 + 𝑎4 e4 + 𝑎5 e5 + 𝑎6 e6 + 𝑎7 e7 とあらわされる数(𝑎𝑖 ∈ ℝ)。 e21 = e22 = e23 = e24 = e25 = e26 = e27 = −1 e1 e2 = −e2 e1 = e3 , e2 e3 = −e3 e2 = e1 , e3 e1 = −e1 e3 = e2 e1 e4 = −e4 e1 = e5 , e4 e5 = −e5 e4 = e1 , e5 e1 = −e1 e5 = e4 e2 e4 = −e4 e2 = e6 , e4 e6 = −e6 e4 = e2 , e6 e2 = −e2 e6 = e4 e3 e4 = −e4 e3 = e7 , e4 e7 = −e7 e4 = e3 , e7 e3 = −e3 e7 = e4 e5 e3 = −e3 e5 = e6 , e3 e6 = −e6 e3 = e5 , e6 e5 = −e5 e6 = e3 e6 e1 = −e1 e6 = e7 , e1 e7 = −e7 e1 = e6 , e7 e6 = −e6 e7 = e1 e7 e2 = −e2 e7 = e5 , e2 e5 = −e5 e2 = e7 , e5 e7 = −e7 e5 = e2 4/14 宇佐見 公輔 八元数のはなし
結合法則の崩れ 交換法則の崩れ 四元数と八元数は交換法則が成り立たない。 e1 e2 ≠ e2 e1 e1 e2 = e3 , e2 e1 = −e3 結合法則の崩れ 八元数は結合法則が成り立たない。 (e1 e2 )e4 ≠ e1 (e2 e4 ) (e1 e2 )e4 = e3 e4 = e7 , e1 (e2 e4 ) = e1 e6 = −e7 5/14 宇佐見 公輔 八元数のはなし
余談: 「結合的」という言葉 グレイブスが八元数を発見してハミルトンに伝えたとき、ハミル トンが結合法則が成り立たないことを指摘した。このとき初めて 「結合的(associative)」という言葉が使われた。 なお、結合的でない代数構造は、八元数のほかに、リー代数や ジョルダン代数などがある。 6/14 宇佐見 公輔 八元数のはなし
何を「数」と呼ぶのか? 疑問 1 四元数や八元数のように、交換法則や結合法則が成り立たないも のを「数」と呼んでいいのか? 疑問 2 四元数や八元数を「数」と認めるとして、それ以外のものは「数」 とは呼ばないのか? 7/14 宇佐見 公輔 八元数のはなし
数っぽさ 有理数や実数が持っている「数っぽさ」は何か? ものの量をあらわす 大きさがある 大小比較ができる 加減乗除ができる 加法で閉じる、結合法則、交換法則 減法で閉じる(加法の逆元がある) 乗法で閉じる、結合法則、交換法則、分配法則 除法で閉じる(乗法の逆元がある) 8/14 宇佐見 公輔 八元数のはなし
複素数はどうか? 先ほどの「数っぽさ」を複素数は持っているか? 複素数どうしの大小比較はできない。ただし、絶対値は定義でき る。𝑎 = 𝑎0 + 𝑎1 i に対して、 |𝑎| ∶= √𝑎20 + 𝑎21 加減乗除は問題ない。特に、乗法の逆元は次のようになる。 𝑎𝑎 = 𝑎20 + 𝑎21 = |𝑎|2 より、𝑎 ≠ 0 のとき 𝑎−1 = 𝑎 |𝑎|2 9/14 宇佐見 公輔 八元数のはなし
絶対値に期待する性質 複素数は、実数のような「大小比較ができる」という性質は持たな くなった。この点はあきらめるが、「絶対値」はまだ持っている。 この「絶対値」と「加減乗除」との関連を考えてみる。 絶対値は「原点からの距離」にあたるものだから、距離として次 の性質は持っていてほしい。 |𝑎 + 𝑏| ≤ |𝑎| + |𝑏| また乗法は、大きさに関しては「拡大縮小」であってほしいから、 次の性質は持っていてほしい。 |𝑎𝑏| = |𝑎||𝑏| 複素数の絶対値はこれらを満たしている。 10/14 宇佐見 公輔 八元数のはなし
四元数や八元数はどうか? 四元数も絶対値は定義できる。𝑎 = 𝑎0 + 𝑎1 i + 𝑎2 j + 𝑎3 k に対して、 |𝑎| ∶= √𝑎20 + 𝑎21 + 𝑎22 + 𝑎23 八元数も同様に定義できる。 |𝑎| ∶= √𝑎20 + 𝑎21 + 𝑎22 + 𝑎23 + 𝑎24 + 𝑎25 + 𝑎26 + 𝑎27 これらは、|𝑎 + 𝑏| ≤ |𝑎| + |𝑏| や |𝑎𝑏| = |𝑎||𝑏| を満たす。 加減乗除は問題ない。乗法の逆元は、𝑎 ≠ 0 のとき 𝑎−1 = 𝑎 |𝑎|2 11/14 宇佐見 公輔 八元数のはなし
数の性質 「数」に期待する性質は以下で、実数、複素数、四元数、八元数は これらを満たす。 絶対値がある |𝑎 + 𝑏| ≤ |𝑎| + |𝑏| |𝑎𝑏| = |𝑎||𝑏| 加減乗除ができる 加法で閉じる、結合法則、交換法則 減法で閉じる(加法の逆元がある) 乗法で閉じる、分配法則 除法で閉じる(乗法の逆元がある) なお、代数の言葉を使えば、(実数体上の)「ノルム付き可除代数 (normed division algebra) 」である(乗法的なノルムを持ち、零 元以外が乗法の逆元を持つ ℝ 代数)。 12/14 宇佐見 公輔 八元数のはなし
これ以外の「数」はないのか? 定理 実数体上のノルム付き可除代数は、ℝ、ℂ、ℍ、𝕆 の 4 種類しか ない。 八元数を拡張して十六元数を構成することはできる。しかし、十 六元数は以下の性質を持ち、「数」ではなくなる。 |𝑎𝑏| = |𝑎||𝑏| とは限らない。 乗法の逆元が存在するとは限らない。特に、零因子が存在 する。 零因子とは、𝑎 ≠ 0, 𝑏 ≠ 0, 𝑎𝑏 = 0 を満たす 𝑎, 𝑏 のこと。零因子は 乗法の逆元を持たない。 13/14 宇佐見 公輔 八元数のはなし
参考文献 他にもありますが、読みやすい本として。 参考文献 松岡 学 「数の世界 自然数から実数、複素数、そして四元数へ」 講談社ブルーバックス 14/14 宇佐見 公輔 八元数のはなし