イジング模型の定義

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October 16, 20

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1.

イジング模型の定義 宇佐見 公輔 2020 年 10 月 16 日 イジング模型(Ising model)は統計力学で扱われる数理模型のひとつです。強磁性体や格子気体 の模型として用いられます。1 次元と 2 次元のイジング模型は、数学的に厳密解を求めることがで きる可解格子模型です。 ここでは、2 次元イジング模型の定義と、それを解くとはどういうことを指すのかを述べます。 2 次元イジング模型の定義 𝑚 行 𝑛 列の格子(lattice)を考えます。次の図は 5 × 6 の格子の例です。 格子点を座標 (𝑖, 𝑗) であらわすことにします。例えば上の図で赤い格子点は (3, 4) であらわしま す。また、𝑚 × 𝑛 の格子点全体の集合を 𝐿 とします。 それぞれの格子点 (𝑖, 𝑗) ∈ 𝐿 に対して +1 または −1 の値を指定することを、配置(configuration) と呼びます。つまり配置とは、写像 𝐿 → {±1} (𝑖, 𝑗) ↦→ 𝑠𝑖𝑗 のことです。また、𝑠𝑖𝑗 を格子点 (𝑖, 𝑗) のスピン(spin)と呼びます。配置 𝑠 ∶ 𝐿 → {±1} と写像で書く 代わりに、𝑠 = (𝑠𝑖𝑗 )1≤𝑖≤𝑚, 1≤𝑗≤𝑛 という書き方もします。 配置 𝑠 = (𝑠𝑖𝑗 ) が与えられたとき、𝑠𝑖+𝑚, 𝑗 = 𝑠𝑖𝑗 および 𝑠𝑖, 𝑗+𝑛 = 𝑠𝑖𝑗 という規則を追加することで、 𝑖, 𝑗 ∈ ℤ に定義を拡張しておきます。この規則を周期境界条件と呼びます。 1

2.

配置 𝑠 = (𝑠𝑖𝑗 ) に対して、実数値 𝐸(𝑠) を次で定義します。 𝐸(𝑠) ∶= −𝐸1 ここで、𝐸1 と 𝐸2 は正の定数、 ∑ は 𝑖, 𝑗 𝑚 ∑ 𝑛 ∑ 𝑖=1 𝑗=1 ∑ 𝑖, 𝑗 𝑠𝑖𝑗 𝑠𝑖+1, 𝑗 − 𝐸2 ∑ 𝑖, 𝑗 𝑠𝑖𝑗 𝑠𝑖, 𝑗+1 の略記です。𝐸(𝑠) を配置 𝑠 のエネルギー(energy)と呼 びます。 このように、格子点集合 𝐿 の配置 𝑠 に対するエネルギー 𝐸(𝑠) を設定した模型をイジング模型 (Ising model)と呼びます。今は 𝐿 を 2 次元の格子としているため、特に 2 次元イジング模型と呼 びます。 補足 1:模型(model)という言葉は数理物理の用語です。 補足 2:イジング模型は、より一般には、磁場を考えたり相互作用が最近接に限らなかったりし ます。上述の定義は、最も狭い意味の定義となっています。 分配関数 統計力学の一般論によれば、ある系が絶対温度 𝑇 の平衡状態にあるとき、エネルギー 𝐸(𝑠) を持 つ配置 𝑠 が出現する確率は 𝐸(𝑠) 1 ) exp (− 𝑍 𝑘𝐵 𝑇 𝑝(𝑠) = です。ここで 𝑘𝐵 は Boltzmann 定数です。𝑍 は全確率を 1 に規格化する定数で、 𝑍= です。 ∑ 𝑠 ∑ 𝑠 exp (− 𝐸(𝑠) ) 𝑘𝐵 𝑇 は全ての配置 𝑠 についての和をとるという意味です。𝑍 は 𝑇 によって決まる値ですので、 𝑇 についての関数と見ることができます。𝑍(𝑇) は分配関数(partition function)と呼ばれます。 2 次元イジング模型の分配関数は、 𝑍(𝑇) = ∑ 𝑠 exp (− 𝐸(𝑠) ) 𝑘𝐵 𝑇 ⎛ 𝐸 ∑ ⎞ 𝐸 ∑ exp ⎜ 1 𝑠𝑖𝑗 𝑠𝑖+1, 𝑗 + 2 𝑠𝑖𝑗 𝑠𝑖, 𝑗+1 ⎟ 𝑘𝐵 𝑇 𝑖, 𝑗 𝑘𝐵 𝑇 𝑖, 𝑗 𝑠 ⎝ ⎠ ⎛ ∑ ⎞ ∑ ∑ = exp ⎜𝐾1 𝑠𝑖𝑗 𝑠𝑖+1, 𝑗 + 𝐾2 𝑠𝑖𝑗 𝑠𝑖, 𝑗+1 ⎟ = ∑ 𝑠 と書けます。ここで 𝐾1 ∶= 𝐸1 𝑘𝐵 𝑇 、𝐾2 ∶= 𝑖, 𝑗 ⎝ 𝐸2 𝑘𝐵 𝑇 𝑖, 𝑗 ⎠ とおきました。 いま、格子 𝐿 は 𝑚 × 𝑛 の有限のサイズとしていました。統計力学の模型として本当に考えたいの は、𝑚, 𝑛 → ∞ の場合です。その場合の分配関数 𝑍(𝑇) を記述するのがひとつの目標となります。 2

3.

模型が「解ける」とは 統計力学と熱力学の一般論によれば、ある系の自由エネルギー 𝐹(𝑇) と分配関数 𝑍(𝑇) との間に次 の関係があります。 𝐹(𝑇) = −𝑘𝐵 𝑇 log 𝑍(𝑇) 𝐹(𝑇) は熱力学において最も基本的な物理量であり、他の熱力学量を導くことができます。した がって、分配関数を記述することができれば、模型が「解ける」といえます。 そして、2 次元イジング模型はこの意味で「解ける」模型です。 補足:一般には模型が「解ける」という言葉はこの意味に限りません。 3