トランス生徒の対応について - 高校教職員研修用

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September 26, 22

スライド概要

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西田彩ゾンビです。 office saya代表 音楽家、モジュラーシンセアーティスト、ディレクター、デザイナー、大学講師 大学 京都精華大学 ポピュラーカルチャー学部 音楽コース 非常勤講師(2013〜現職) 京都精華大学 芸術学部 映像コース 非常勤講師(2015〜現職) 甲南女子大学 文学部 メディア表現学科 非常勤講師(2016〜現職) 阪南大学 経営情報学部 経営情報学科 非常勤講師(2018〜現職) 大谷大学 非常勤講師(2021〜) 大阪経済大学 人間科学部 客員教授(2021〜)

関連スライド

各ページのテキスト
1.

トランスジェンダー生徒への きめ細かな対応について 2022年1月26日 (改訂v.3.8 2022年9月10日) 西田彩 (甲南女子大学、大谷大学、京都精華大学、阪南大学 1 非常勤講師)

2.

わたしについて 西田 彩 にしださや 1967年10月10日生 音楽家・デザイナー 大学教員 • 京都精華大学 • 大谷大学 • 甲南女子大学 • 阪南大学 • 大阪経済大学 mail: office.saya@gmail.com 2

3.

お話させていただく内容 1. 対応の基本について 2. 用語の確認 3. 統計の確認 4. 国内の動きと文科省 5. きめ細かな対応について 3

4.

今回はトランスジェンダーのみを扱います ✓一般のLGBT講習では「トランス」のことが 中途半端になってしまっている ✓実際に何をやったらいいのか分からない。 試行錯誤しながら対応が行われている。 当事者の感覚とは乖離した対応も多い。 例)レインボー(LGBT)トイレの設置 当事者の感覚をもとにお話をしていきます。 4

5.

対応の基本事項 5

6.

対応の3つの基本 ✓話を傾聴する。 ✓きめ細かな個別対応。 ✓アウティングしない。 ジェンダーに関して非典型的な振る舞い をみせる児童生徒の 1 あり方やニーズは個人差が大きい。 マニュアル化したものでは対応できない。 *1 ジェンダーに関して非典型的な振る舞い(Gender non-conforming) 「男性または女性の性別の規範と一致しない行動または性別の表現」 6

7.

対応の方向性の確認 ✓身体的にも精神的にも安全な環境 ジェンダーに関して非典型的な振る舞いを見せる子は 幼少期より(家族を含め)周囲から否定的に扱われることが多い。 自身のセクシュアリティについて肯定的に捉えることを難しくしており、 自己肯定感を育むことも阻害されている。 自己が攻撃されたり否定されることがないという 安心安全な環境作りが目標 7

8.

当事者目線 これらを当事者目線で捉えてみる ✓話を受容的に聞いてもらえる。 ✓寄り添って対応を考えてくれる。 ✓アウティングされない。 ✓イジメられない・否定されない安全な場所。 →「三つの基本」と「方向性」を軸に考えていく。 8

9.

用語の確認 9

10.

トランスジェンダー(形容詞) 日本での一般的な説明 ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ • 出生時に割り当てられた性別とは異なる性自認の人 • 出生時に割り当てられた性別とは異なる性別で生きる人 出生時に割り当てられた性別や それにもとずく社会の性別規範に非順応的な性別のありかたを持つ人。 品詞は形容詞ですので、名詞との組み合わせによって 様々な使われ方がされる用語でもあります。 その他、歴史的にも様々な使われ方をしています。 10 ジェンダーの多様性をめぐる概念の登場と変遷 東優子 2017 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspog/22/3/22̲219/̲article/-char/ja/

11.

多様なトランスジェンダーの人々 「トランスジェンダー」で包括 バイナリー(男女二元論)系 • トランス男性・トランス女性 (トランスセクシュアルを含む) ノンバイナリー(非男女二元論)系 • ノンバイナリー、Xジェンダー、ジェンダークイア、 クエスチョニングなど 米国での「トランスジェンダー」という言葉は、90年代以降こうした 11 「トランスジェンダー・コミュニティ」を指す包括的な言葉として広がった。

12.

トランス男性・トランス女性(形容詞+名詞) ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ • 出生時に割り当てられた性別とは反対の性自認の人 • 出生時に割り当てられた性別とは反対の性別で生きる人 トランス男性 出生時に女性と割り当てられたが、男性のアイデンティティを持ち、 男性として主体的に生きる人(生きることを望む人)を説明する言葉。 トランス女性 出生時に男性と割り当てられたが、女性のアイデンティティを持ち、 女性として主体的に生きる人(生きることを望む人)を説明する言葉。 (望む人というのは、性別移行のプロセスを担保した言い方) トランス男性・トランス女性はアンブレラターム(包括用語)ではない 12

13.

ノンバイナリー・Xジェンダー・ジェンダークイア・クエスチョニング ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ • 出生時に割り当てられる男女では捉えられない性自認の人 • 出生時に割り当てらるた男女とは捉えられない性別で生きる人 男女のどちらでもない・男女のどちらでもある。 男女の枠組み(性別二元論)では捉えられない性のあり方。 男女のどちらの性別集団にも自身を位置付けた経験がない。 自身のジェンダーをどう捉えたらいいのかわからない。 こうしたアイデンティティを説明するのに 「ノンバイナリー」「Xジェンダー」「ジェンダークイア」「クエスチョニング」 といった言葉があります。 13

14.

様々なジェンダーセクシュアリティ関連用語 性自認 性的指向 エイジェンダ― エイセクシュアル ジェンダーフルイド パンセクシュアル トランスマスキュリン デミセクシュアル デミロマンティック 多すぎて意味わからないし、覚えられない。 • そんなにカテゴライズしなくていいんじゃない? 14

15.

性的指向や性自認をあらわす様々な言葉・用語というのは ✓ 自分自身を発見・理解し、そして自己を説明したり語れるようになる。 ✓ 言葉・用語が存在にすることによって、「この感覚を抱いていたのは自分一人 では無い」ということを発見する。 ✓ 言葉・用語との出会いは仲間やロールモデルを発見する手がかりともなる。 ✓ 共通する問題が可視化され、考えたり、切り口を得る切っ掛けとなる。 用語の発見は、本人にとって自身が何者なのかを知り 社会の中に位置付ける切っ掛けとなるのもの。 (自己定義・分節化) 他人をカテゴライズしたりジャッジする為にあるのではない。 15 性別越境していても、トランスジェンダーという言葉では自己定義しない人もいる。

16.

ジェンダーに非同調的・非順応的な自身への自己認識 内的に体験している性別( Experienced Gender ) • 性別集団への帰属感覚 • 自己投影する姿が属す性別 • 将来像で思い描く姿が属す性別 • …など 帰属感覚から生ずる性役割行動 帰属感覚側への同調行動 自身の感覚が他人とは違うということを 客観的に認識し言語化するには? 生活上で何らかの 切っ掛け・トリガーが必要 トリガーの時期によって、性別違和として表現する時期に差が 生じたり、自分を語る言葉の選択や用い方が変わったりする。 16

17.

アイデンティティを言語化するには 幼少期 自分についての洞察能力や、洞察したことを言語化する 能力が未熟。 性別概念の発達も未熟。 自身のジェンダー・セクシュアリティを的確に捉え、 言葉で説明することは殆ど不可能。 周囲が幼児・児童の振る舞い・感情を読み取って、 心理的安全性を担保しながら 成長・発達を見守っていくことが必要 17

18.

言葉の獲得 (青年期)自身を語る言葉を獲得するには • 用語や人(ロールモデル)を知る。 • その用語の意味や人と自身の感覚が一致していると感じる。 • 用語を頼りに、情報を探す。本や記事を読んだりする。 • 同じ用語を使っている人々と言葉・経験を共有できる。 トランス女性は人口の0.1%未満。 そうしたなかで自身を語れる言葉を探すのは困難! 18

19.

属性を間違って捉えることも 環境がもたらす影響 ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ たとえば、恋愛において異性愛が恋愛規範とされる環境下では 異性愛以外の性的指向は規範から逸脱してしまう。 ↓ 恋愛は異性愛であるべし。ゆえに同性愛はありえない 同性愛者の場合、自己のセクシュアリティを肯定的に捉えられない ホモフォビア・バイフォビアの内面化 規範から逸脱した同性愛を受け入れるに (「内なるホモフォビア」と呼ばれる) は、自分の性自認を異性側に設定するこ とで恋愛感情を異性愛として辻褄を合わ 自我同一性の形成が困難になる せてしまう。 「自分はトランスジェンダーかも?」 19

20.

アイデンティティを表す言葉も変化する ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ アイデンティティを表す言葉が変化してゆくケースもある (しばし観測される例) トランス男子・女性を自認し表明していたあと、 Xジェンダーへと自身を語り直す例 試行錯誤しながら、自分にフィットする言葉を探す。 こうしたアイデンティティの語り直しは重要。 自分が何であるのかは自分自身が確立してゆくもの。 「意味されるもの」は変わらず、「意味するもの」が変わる。 20

21.

意味するもの、意味されるもの アイデンティティとして選ぶ言葉の変化を色に例えると 青? 意味されるもの 緑? アイデンティティ 青緑? 浅葱色?(あさぎいろ) 胆礬色?(たんばいろ) 21 意味するもの 言葉

22.

ジェンダー・アイデンティティと「心の性」 まず、理解を深めるためのお話 22

23.

ジェンダー・アイデンティティ ✓ 「性同一性」や「性自認」と訳されています。 ✓ 一般的に「心の性」とも説明されています。 (※ 専門家は「心の性」という言葉は使いません) ✓ ジェンダー・アイデンティティはすべての人の根幹に関わるもの。 (トランスジェンダーのみの話ではありません) まず、ここから詳しく見ていきましょう。 23

24.

ジェンダー・アイデンティティ(性自認・性同一性) ① 自分が所属している性別について知っていると いう感覚のこと。すなわちʼ私は男性であるʼもし くはʼわたしは女性であるʼという認識のこと (Stoller1964) ② ③ 男性、あるいは女性、あるいはそのどちらと も規定されないものとしての個性の統一性、 一貫性、持続性(Money1965 訳:東優子 2000) 斉一性・連続性をもった主観的な自分自身が、 まわりから見られている社会的な自分の性別と 一致するという感覚(Erikson1963 谷冬彦 2001) 近年では「Experienced Gender(体験された性別)」という言葉でも説明されている。 24 参照: ジェンダー・アイデンティティ尺度の作成 佐々木 掌子, 尾崎 幸謙

25.

ポイント「斉一性」と「連続性」 ジェンダー・アイデンティティとは 1. 場所や状況が異なっていても、自分の性は一貫して_である。 2. 過去〜未来において、自分の性は_である。 3. 他者から見られている性と自分の性が一致している。 4. 社会において、自分の性は_として位置付けられている。 これらが統合されたものが、ジェンダー・アイデンティティ。 アイデンティティの多次元自我同一性尺度 「 自己斉一性 ・連続性」「対自的同一性」「対他的同一性」「心理社会的同一性」 25 •青年期における同一性の感覚の構造̶多次元自我同一性尺度(MEIS)の作成 谷冬彦 2001

26.

ポイント「斉一性」と「連続性」 ✓ 場所や状況が変わっても、一貫して同じ自分であるという感覚 ✓ 成長変化してゆくなかでも、連続して同じ自分であるという感覚 性別存在として安定した性同一性の獲得 + (出生時に割り当てられた性別は○だけど) やはり自分は_だ(自認) ジェンダーアイデンティティとして統合・確立 26

27.

自己の内的感覚の体験と、実社会での経験 内的に体験している性別( Experienced Gender) 否定される • 性別集団への帰属感覚 矯正される • 自己投影する性別 • • 将来像で思い描く姿 望まぬ扱いを受ける …など いじめられる 禁止される 帰属感覚から生ずる性役割行動 帰属感覚側への同調行動 性別違和 なぜ否定されるの? 自分はおかしいの? 27 自己肯定感が育めない 自分は何なの? アイデンティティの混乱 (斉一性の混乱)

28.

第二次性徴と身体違和 第二次性徴による身体の急激な変化 帰属しているはずの性別集団の中で 1人だけ違う性別の身体へ成長・変化していく 自己の連続性の喪失 (連続性の混乱) 身体への拒絶・葛藤 自己肯定感が育めない 疎外感・孤独感 身体違和 28 人生に展望がもてない

29.

アイデンティティの統合・確立 • 斉一性・連続性の混乱・断絶による性別違和や身体違和 • 社会に自分を位置付られない葛藤・苦痛 • 出生時に割り当てられた性別で生きてみる • 自分のような例があるのか調べてみる • 似たよう葛藤をもつ人の話を聞く …など、試して生きようとする ストレス、もう無理! 鬱 自傷 引きこもり 「素直な自分の姿で生きていたい」「自分を表現する言葉の獲得」 帰属感覚をもつ性別の1人として社会に自分を位置付ける ジェンダー・アイデンティティの統合・確立 29

30.

ノンバイナリー・Xジェンダーの場合 内的に体験している性別( Experienced Gender) • 男女という2分化される性別集団への帰属感覚が そもそも無い • • 自己投影する性別が無い • 男女のどちらも内的には経験していない …など 男性・女性という枠組みで自身を捉えられない 自分にとってのロールモデルが見えない 男性・女性という二分化された性別では 自分を社会に位置付けられない。 ジェンダー・アイデンティティの統合が困難 30

31.

マイノリティの立場における ジェンダーアイデンティティの尊重とは 性別規範に非順応的なアイデンティティであることを理由にして ✓ 一人ひとりの人格が否定されないこと。 ✓ 人としての尊厳が奪われないこと。 性別規範に同化させたり、居ないものとされない。 困難がある場合、その解決を検討できる。 自己肯定感が育まれる 社会に自身を位置付けられる 人生を築いていける 法や条例案に対する否定派の意見において、尊重=女性スペースの利用を定め ることのように解釈されて批判されているがその設定自体が誤りです。 31

32.

「心の性」と「体の性」?? ジェンダーアイデンティティとは意味するものが変わることに注目 32

33.

「心の性」と「体の性」が異なる …という誤解 医学においても、社会学においても使われていない説明 しかし、一般社会では広く使われてしまっている なぜこの説明が広がったのか。 • 難解な「アイデンティティ」や「性同一性」という専門用語より「心の性」 のほうが分かりやすい。 • 一部の精神科医が「ジェンダーとセックス」を「心の性と体の性」として 単純化して解釈し、「心の性と体の性の不一致」という物語を用いてき た。 • 新聞・テレビメディアがこの説明を再生産し続けている。当事者もそうし た言い方を学習して安易に使用している。 33

34.

心の性別? 世間一般に分かった気にさせる言葉であるが… ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ マジョリティが理解可能なジェンダー規範の中に 単純化されて意味付けられてしまう危険性。 → 当事者のジェンダー・アイデンティティをめぐる 複雑な体験・経験が無いものにされてしまう ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ジェンダー・アイデンティティが女性であっても黒いランドセルを選ぶこともあるのです。 単純化された意味付けによって「本当に心が女性なら○○のはずだ!」 といった規範化されたジャッジが横行するなど、 当事者の在り方が歪められてしまう。 34

35.

心の性別? 時代や国・文化、環境のなかで「男らしさ」「女らしさ」として 意味付けられている様々な要素 ↓ ひとつひとつの要素の強弱は一人一人違うが 誰しもがそうした要素をモザイク状に持ち合わせている。 ひとつひとつの要素の強弱や構成でもって「心の性別」とはできない。 ここに誤解や偏見、勝手な解釈が入り込む。 35

36.

心の性別? たとえば スカートが好きで、いつも可愛い恰好を好む男の子の例。 この子の”心の性”は女の子? この状態・この情報においては、「可愛い恰好を好む男の子」に過ぎない。 これだけではジェンダーアイデンティティはまだ分かりません。 ﹅ ﹅ こうしたエピソードは当事者のナラティブとしてよく語られますが 確定した結果から遡ってプロセスを語っているにすぎません。 因果関係を逆転させないこと 36 「ジェンダー・アイデンティティ」と「心の性別」は根本的に違います。

37.

補足 思春期をこえて自己を確立してゆくまで その子がトランスジェンダーかどうか分からない 同様に その子がシスジェンダーかどうかも分からない 二元的な性別規範に非同調的な振る舞いを見せる子がいても 周囲がどちらにも決めつけないことが大切 37

38.

身体の性別? 最近は「身体の性」ではなく「出生時に割り当てられた性別」と説明されている 胎児期での性別の発現は性染色体・性腺・内性器・外性器・脳という 段階があり、その性分化過程で何かの事象が生じたら、次の段階以降 に対して複雑な連鎖を及ぼすため、多様な様態が生じる※。 ✓諸検査・エビデンスに従い、医師による判定(一般的には外性器確認) によって性別が割り当てられ戸籍に登録される。 ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ✓登録された性別に従って、養育上の性別も割り当てられる。 38 ※ 性別違和がある子どもたち」大阪医科大学准教授 康純 著

39.

意味するものの違いを考えてみよう 世間に流通している説明 「心の性」と「体の性」が異なっている 適切な説明 「性自認(Gender Identity)」と「割り当てられた性別」が異なっている 出生時に割り当てられた性別では斉一性・連続性が安定しないことで アイデンティティの統合・確立が阻害されており 自身を社会や人生の中に位置付けられない。 → 出生時に割り当てられた性別を再び割り当て直すことを望む(性別移行) 39

40.

性別不合の診断では 性別不合とは(ICD-11) 「体験されたジェンダーと指定された性との間の顕著で持続的な不一致」 性に関連する領域において、より健康的に生きるために 配慮されるべき状態をいう。 性別不合において「身体違和」は症状の一つ。 性別不合の状態は精神疾患ではなく「多様な性のあり方 」である 思春期以前と、思春期以降では扱われ方が異なってくる。 思春期以前は治療の介入はされず、サポートが中心となるため 基本的に診断する必要がありません。 40

41.

統計の確認 41

42.

公的な統計調査・トランスジェンダー 2019年 大阪市調査: 全体の0.7% 2020年 埼玉県調査: 全体の0.5% 2022年 岡山大調査: 広義0.96%、狭義0.31% トランスジェンダーと回答した人の大半がXジェンダーやノンバイナリー トランス男性・トランス女性はその半数以下(0.3%未満) *「大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート」 *埼玉県「LGBTQ実態調査」 42 岡山大学「日本における性別違和の人口割合:ユトレヒト性別違和スケールを用いたインターネット調査」

43.

公的な統計調査・トランス男性とトランス女性の割合 2015年 日本精神神経学会 受診者数調査 • トランス男性:14,747名 トランス女性:7,688名 約 2 : 1 の割合でトランス男性のほうが多い。 2003年7月〜2015年末まで ジェンダー外来がある主な24医療機関へ22435名が受診 (数字の調整:総数26,000〜28,000名) トランス女性 (出生時 男性) 43 トランス男性 (出生時 女性) 「性同一性障害の国内受診者延べ2.2万人 学会公表 - 日経新聞」

44.

国内の動きと文科省の通知 44

45.

資料と年表 2013 学校における性同一性障害に係る対応に関する状況調査について 文部科学省 https://www.mext.go.jp/component/a̲menu/education/micro̲detail/̲̲icsFiles/afieldfile/2016/06/02/1322368̲01.pdf 性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け) 文部科学省 https://www.mext.go.jp/b̲menu/houdou/28/04/̲̲icsFiles/afieldfile/2016/04/01/1369211̲01.pdf 性的マイノリティの権利保障を目指して─婚姻・教育・労働 を中心に 日本学術会議 https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t251-4.pdf 性的指向および性自認を理由とするわたしたちが社会で直面する困難のリスト 第3版 LGBT 法連合会 https://lgbtetc.jp/wp/wp-content/uploads/2019/03/困難リスト第3版(20190304).pdf LGBT等*に関する 筑波大学の基本理念と対応ガイドライン(令和2 改訂版) 筑波大学 https://diversity.tsukuba.ac.jp/wordpress2017/wp-content/uploads/2020/03/lgbt̲guidline̲20200327.pdf トランスセクシュアル、トランスジェンダー、ジェンダーに非同調な人々の健康のためのケア基準(SOC) 第7版 世界トランスジェンダーヘルス専門家協会(WPATH) https://www.wpath.org/media/cms/Documents/SOC%20v7/SOC%20V7̲Japanese.pdf 大学等における性的指向・性自認の多様な在り方の理解増進に向けて(平成30年12月) 独立行政法人日本学生支援機構(JASSO) https://www.jasso.go.jp/gakusei/publication/lgbt̲shiryo.html 45

46.

1969年 1980年 1996年 1997年 1998年 1999年 2001年 2002年 2003年 2004年 2006年 2007年 2008年 2010年 2012年 2013年 2014年 2015年 2018年 46 ブルーボーイ事件(精巣摘出手術をした医師が有罪判決) 米国精神医学会発行の精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)第3版で「性同一性障害」が公式に使用される 埼玉医科大学倫理委員会が性転換手術を容認 「性同一性障害に関する特別委員会」発足(日本精神神経学会) 日本精神神経学会がガイドライン(第1版)を作成 埼玉医科大学にて日本初の公式の性転換手術 岡山大学医学部ジェンダークリニック発足 第1回GID(性同一性障害)研究会(現 GID(性同一性障害)学会)開催 岡山大学にて国内2施設目の性別適合手術(GID研究会にて性転換手術から名称変更) 戸籍の性別変更を求める裁判を全国一斉に申し立て 性同一性障害を主題としたテレビドラマ「3年B組金八先生」が放映(2001年秋〜2002年春) 日本精神神経学会ガイドラインの改訂(第2版) ホルモン療法開始年齢の制限を18歳に緩和 競艇選手の安藤大将さん(FTM)が男性選手に登録変更 上川あやさん(MTF)が区議会議員に当選 「性同一性障害の性別の取り扱いの特例に関する法律」成立(2004年7月より施行) カルーセル麻紀さん(MTF)が性別変更 日本精神神経学会ガイドラインの改訂(第3版)治療承認の場が倫理委員会から専門医療チームへ MTFの小学生が女児として受け入れられていたとの報道(兵庫県) TV「わたしがわたしであるために」 トランス女性が主役のドラマで、MtF当事者が主演。 中村中さん(MTF)がNHK紅白歌合戦に出演 「特例法」の子なし要件の改正 TV「ラストフレンズ」でトランス男性(ただし、レズビアン的)が主役。 MTFの小学生が2年生から女の子として受け入れられるようになったとの報道(埼玉県) FTMの中学1年生が男子生徒として受け入れられるようになったとの報道(鹿児島県) 文部科学省が「性同一性障害の子どもへの対応を」と都道府県教育委員会へ通知 日本精神神経学会ガイドラインの改訂(第4版) 思春期からのホルモン療法を承認 夫がFTMの夫婦,第3者精子を用いた人工授精で得た子どもの嫡出子認定を求めた訴訟 自殺総合対策大綱の改正で,性的マイノリティへの支援の記載 厚生労働省が障害者保健福祉手帳から性別欄を削除する方針 最高裁が第3者精子を用いた人工授精で子どもを得たFTMの男性を「父」と認定 文部科学省が2013年より性同一性障害の子どもの全国調査を実施し,606人の報告 文部科学省が「性同一性障害の児童生徒へきめ細かな対応を」と通知 女児として受け入れられているMtFの小学4年生から日本女子大学附属中学への進学希望の問い合わせ(神奈川県) お茶の水女子大学がトランス女性へ門戸を広げる決定 青字=Webページリンク

47.

2005年〜2017年 47

48.

2010年 48

49.

2013年、文科省が全国調査 606名の児童生徒が学校対応を受けている 49

50.

性別違和の時期 「性別違和」の言語化には タイムラグがあります。 「性別違和」という言葉を 知り、それが経験してきた 困難と結びついたときに初 めて「性別違和」として語 れるようになるのです。 よって、過去の困難を振り 返ったときに、「性別違 和」のエピソードだったと 見出した時期が、「自覚し 始めた時期」となります。 50 岡山大学より

51.

2015年 教職員向けの通知 51

52.

2018年 52

53.

きめ細かな対応について 当事者の置かれる立場の確認 53

54.

当事者が置かれる立場の確認 ex) 国籍や人種といったマイノリティは家族全員が同じ境遇を共有している。 • トランスジェンダーの当事者は家族の中で本人だけの境遇となる。 • 更には、学校の中で本人だけ、地域の中で本人だけ…ということも。 これは何を意味するのか? ✓居場所を失いやすい。 ✓相談できる人・境遇を共有できる仲間がいなく、孤立しやすい。 ✓自身を表現・確立するための言葉獲得や経験が阻害されやすい。 ✓ロールモデルが身近にいない。社会に自分を位置付けられない。 ✓メディアでの描かれ方の影響を受けやすい。誤解されやすい。 ✓自己肯定感を育みにくい 54

55.

居場所を失いやすい 児童・生徒にとって家と学校が日常生活の大半を占める場所。 家族の理解が得られない場合 学校に居場所がなくなると ほぼ全ての居場所を失ってしまう。 親には言いづらい当事者が多い。 学校でカミングアウトが必要になった場合、その成否にも影響する 現代ではインターネットが居場所として機能している。 55

56.

自身を言語化するための言葉や経験が阻害されやすい 生き辛さや、周囲と違う自身のことや 抽象的な感覚を捉え、理解するには「言葉」が必要。 周囲に同じ境遇の人が居ない場合 ✓言葉を知る切っ掛けが生じない ✓言語資源へアクセスできず、孤立しやすい。 ✓自身の属性を知り、語ることができない。 ✓言葉に出会えないと精神的にも孤立してしまう。 社会はマジョリティの言葉と経験が溢れている。 その中では自分が何者であるのか分からない 56 地に足がつかない感覚のまま彷徨う。

57.

保護者もまた孤立しやすい 保護者もまた孤立しやすく、ストレスに晒されやすい 身近に相談できる人がいない 身内や周囲からも責められやすい 育て方に問題があったのではといった自責にかられる 旧来の性別規範が根強い地域・環境では、 ジェンダーに関する非典型的な振る舞い自体の否定や抑圧として現れる。 57

58.

メディアからの影響 絶対数が少ない。出会う機会が少ない。 ↓ 家族や周囲の人々だけでなく、当事者自身も メディア表象やニュース記事などから トランス像を学習してしまう。 メディア 嘲笑される存在である 粗雑な扱いをされる存在である ”普通”ではない、おかしい存在である ネガティブな表象だと → 58 自分を肯定的に社会へ位置付けられない

59.

更に… 可視化されやすいトランスジェンダー ✓性的指向のマイノリティは可視化され難い ✓性同一性のマイノリティは可視化され易い A. 服装・髪型・振る舞い・持ち物や趣味のなかにジェンダー表現が現れる。 B. 性別移行での見た目の変化が人目に晒される。 C. 性別移行において、書類上の名前・性別との不一致により推測される。 → いじめ・差別の対象になりやすい。 社会生活において困難を抱えやすい。 ※【注意】性別移行し、性別集団に同化してしまった当事者は他者の目には観測されない。 59

60.

以上 当事者が置かれる境遇・立場を踏まえた上で… どう対応したらいいのか 60

61.

学校において想定される当事者 61

62.

想定 • 入学までに対応を受けてきた生徒 • 入学後に対応を希望する生徒 • 中退者や卒業生 • 教職員 • 周囲の学生もまた対応における当事者となる 62

63.

安心できる相談環境について 63

64.

(前提)トランス生徒にとっての「相談」とは ✓まず言葉の獲得が必要 ✓カミングアウトが必要 ✓本人がリスクを背負う ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ 学校対応はカミングアウトから始まる。 相談すること自体のハードルが非常に高い。 64

65.

カミングアウト 自身のジェンダー・セクシュアリティを他者に打ち明けること 略して「カム」 語源は「Come out from the closet!(クローゼットから出てこよう)」 これは、同性愛は犯罪とされ、差別と偏見に晒されていた70年代に、ゲイを公表してサンフランシスコ市政執行委員に立候 補・当選したハーヴェイ・ミルク氏の掲げたスローガン。 性的マイノリティへの嘲笑や侮蔑を見聞きするような環境では、 カムアウトすることはとてもリスキーで、そして勇気がいる。 65

66.

カミングアウト 本人が自分の意思とタイミングで行うものであって、 他人がカミングアウトを強要したり、促したりするものではない カミングアウトを受けたとき • まず受容的態度が必要 • 共有範囲を確認しておく • アウティングをしないよう気を付ける 66

67.

安心して相談できる環境 安心して相談できる環境の構築 (対応できることリストの提示など) 当該者が不利益を被らないよう適切な対応 相談することにも様々な懸念がある状態では ・自身の抑圧を続ける ・不登校になる ・自傷行為にはしる 67

68.

学校 男女区分が明確になり、性別規範を強化する空間・社会 割り当てられた性別に非順応的な感覚を体験している児童生徒にとって ストレスが積み重なる(マイノリティ・ストレス) 特にトランス女子の多くは不登校になっている 68

69.

困難をひとつひとつ紐解く • 男女規範で分類される制服の着用が困難なのか • 体育の授業が困難なのか、 • 身体が受け入れられないのか…etc 何に困難を覚えているのかを本人が語れるようになること そのプロセスを支える こうしたプロセスを経たあとに トランスジェンダーの何れかとして自身を位置付けるとは限らない。 周囲がカテゴライスしないこと。 ✎ 言語化のプロセスにある生徒と、言語化できている生徒への対応は変わってくる 69

70.

自身を言語化できている生徒 自らのジェンダー・アイデンティティを既に認識している。 違和感や困りごとを言語化できる。 個別具体的に対応を話し合う 可能なこと・不可能なことを、自身の状態に合わせたうえで 自ら考えて解決できる能力を育む 今後、希望した性別で どういう風に生きていきたいのかを考える機会を作る。 人生の中に自身を位置づけることを行う。 70

71.

言語化が未熟な生徒の例 ジェンダーに関して非典型的な振る舞いみせている生徒がいる場合。 自身の生き辛さを性別に関する問題として認識し、相談するには ✓ 「性別違和」という言葉とその概念の理解。 ✓ 自分の中の葛藤・違和感・生き辛さ・性同一性の言語化。 これらが結びついたときに初めて、違和感・生き辛さが ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ 「性別違和」とされているものだと気付く。 言語化するまで時間と経験が必要 71

72.

概念の理解や、言語化できるかどうか 本人が自分自身のことを語れるようになることが大切。 ジェンダーに関して非典型的な振る舞いみせている生徒であっても 本人が言語化するよりも周囲が先回りして その振る舞いを「トランスジェンダー」「性別違和」であると 決めつけてはいけない。 72

73.

性別違和と発達障害が併発している例もある • 葛藤・生き辛さを言語化出来ない • 本人が用いる言葉を丁寧に傾聴することが必要 発達障害の生き辛さ 性別違和の生き辛さ その生き辛さがどちらなのか本人も分からないケースがある どのように寄り添えるのか ソーシャルワーカーとの連携が必要 73

74.

非指示的支持の重要性 性別と関連して葛藤や生き辛さがあるが 言語化できない… ✓うまく相談できない ✓しかし苦しい 安全で持続的な関係を築くために、まず肯定的に話を聞く。 本人が自身を言語化してゆくプロセスを支える。 非指示的支持 74

75.

言葉獲得の補助的な対応 言葉が獲得できていない場合 情報との「接点」と「導線」と「理解までの時間」が必要 情報へのヒントや導線の確保。 (図書室に関連書籍を置く) 自身が何であるのかは、本人が確立していくものであって 周囲が決めつけることではない。 75

76.

具体的な対応について 76

77.

具体的な対応について 直接的な対応 間接的な対応 本人に関する対応 環境に関する対応 ✓呼称・性別扱い ✓施設利用 ✓授業・クラブ参加 ✓制服 ✓メンタルケア ✓卒業生対応 77 ✓性の多様性の教育 ✓マイクロアグレッション ✓保護者への説明

78.

直接的な対応について 小中高校と一貫した対応が必要 小中学で性別対応を受けてきた児童生徒が進学したとき 同様の対応を継続することが求められる。 ただし、第二次性徴を境にして、対応の継続が困難な場合も生ずる。 安全にカミングアウトできる環境を作っておくこと 78

79.

思春期からの特徴 幼年期では「性別表現」に関することの葛藤。 思春期からは「身体違和」に関する葛藤が強くなる。 医療機関(専門医)との連携が特に重要になる。 身体特徴の変化によって、周囲との関係性にも変化が生ずる。 これまで周囲に秘匿した対応を受けてきた生徒は困難な状況に陥る。 本人の自己決定と家族の了承によって ホルモン剤による身体治療を開始するケースがでてくる。 79

80.

幼少期からの追跡調査 ジェンダークリニック受診者を対象にしたトランス児童の大規模な調査 幼年期(平均6.5歳)から社会的に性別移行した子どもたち 94%が5年経過時も性自認を維持している 94%:トランス男子・トランス女子 3.5%:ノンバイナリー 2.5%:シスジェンダー 従来は成人時に持続しているのは2〜3割と言われていた。 ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ ﹅ これはジェンダー・クリニックに紹介された子どもたちを追跡調査したもの。 トランス児童の追跡調査ではない。 80 Gender Identity 5 Years After Social Transition - Kristina Olson, PhD

81.

思春期からの特徴 青年期(13〜22歳)の性別違和は、 成人期(22〜40歳)での持続率が非常に高い 先行研究 性別違和と診断され、二次性徴抑制ホルモン剤を投与された 70 名すべて が、再割り当てされた性別を継続し、女性化/男性化のためのホルモン療 法を始めている (de Vries, Steensma, Doreleijers, & Cohen-Kettenis, 2010)。 その他、Olsen博士の最新の研究など要チェックなものがあります。 Gender Cognition in Transgender Children - Kristina R. Olson (2019) https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0956797614568156 81 参照:SOC 7 - Wpath

82.

具体的な対応について 文科省通知の功罪 82

83.

文科省の通知の功罪 通知記載の支援事例が対応マニュアル化してしまっている 83

84.

柔軟性を欠いた対応を招く 事例­1 文科省通知にもとづいた画一的な対応を行ってしまい、 当事者や級友の気持ちや関係性が置き去りにされてしまう。 奈良県の公立中学校 女子生徒(戸籍男性)の事例 修学旅行を迎えるにあたり、同室の女子全員が構わないと 言っているのに、通知通りの「1人部屋の使用」を強要された。 学校生活の体験においては、本人も周囲の児童生徒も「当事者」である。 共有体験から排除する対応では当事者たちにとって残酷となることも。 84

86.

柔軟性を欠いた対応を招く 事例­2 教職員用トイレや多目的トイレの利用を認める。 許可されなくても使える多目的トイレを「許可される」こと がもたらすスティグマ。 小中学と周囲に秘匿した状態で性別対応を受けており、生活 実態として成り立っている事例だと、こうした紋切り型の対 応によってアウティングされてしまう。 個々人が確立している性別移行※の実態を尊重した個別対応が必用 ※ 86 性別移行とは、出生時に割り当てられた性別を本人が生きている(求める)性別へ割り当て直すこと。

87.

RLEとしての支援も必要 入学後に対応を求める生徒にはRLEとしての支援 RLE (Real Life Experience) 実生活体験 性別移行した生活をしていくなかでは どのような問題に直面するのか、 どのように向き合い解決していけるのか、 そういった社会適応力を育み確認していく作業 87

88.

合理的な理由が必要 特定の生徒にのみ行動の制限を課すのなら それ相応の合理的な理由が問われる。 明確に理由が説明できない場合 当事者にとっては不合理な扱いを受けることとなり 差別やスティグマとして心に刻まれていく。 88

89.

卒業生への対応 卒業後に戸籍改名や戸籍変更があった場合 卒業証明書の名前を改名後の名前で発行できるのか? 同窓会名簿での性別扱いをどうするのか? 卒業後に性別移行した生徒にとっては 在学時の性別がアウティングされるものとなる。 人生の選択肢が大きく損なわれる 89

90.

学校環境 90

91.

環境への配慮 マイクロアグレッションとマイノリティストレス マイクロアグレッションとは ありふれた日常の中にある ちょっとした言葉や行動や状況であり 意図の有無に関わらず特定の人や集団を標的とし、 人種・ジェンダー・性的指向・宗教を 軽視したり侮辱したりするような 敵意ある否定的な表現のことである。 ( Su, Capodilupo, et al., 2007 ) 91

92.

環境への配慮 マイクロアグレッションとなる例 ✓「女より女らしいね」「男より男らしいね」 ✓「受け入れてあげる」「理解してあげる」「LGBTでも良いと思うよ」 ✓ いきなり「彼氏(彼女)は?」「下は工事したの?」 ✓ 「男の気持ちも女の気持ちも分かっていいよね」 LGBTの人たちを 認めてあげないとね 無自覚な2級市民扱い 92 無自覚の偏見 うん、受け入れてあげよう 《許可を与える側》 であることに無自覚

93.

マイクロアグレッションを考える 何気ない言葉、善意にも思える言葉ではあるが 無自覚な悪意のメッセージが隠されており 日常の様々な場面で何度も繰り返されることで 受け手にダメージが蓄積される その言葉には ・「どんな意味が隠されていて」 ・「どのような決めつけがあって」 ・「どのように伝わっているのか」 を検証しながら考えてみる。 93

94.

特定の属性を明らかに蔑む目的での言葉 マイクロアサルトとなる例 ✓「キモい」「オカマ」「オナベ」 ✓「自然に反する」「生産性がない」 ✓ 露骨な「君付け」と「さん付け」の使い分け ✓「こっち系かよ」 ✓「認めないのも多様性だぞ」 人権の話と感情や理解の話を混同しないこと 否定を表明できること自体が、マジョリティ側の特権でもある 94

95.

問題がある生徒に仕立てない 当事者にとっては素直な振る舞いや表現が非典型的。 このことで周囲と何らかの問題が起こったとき 本人に問題があるのではなく 非典型的な振る舞いに対する反応のほうに問題がある 当事者にも問題があるかのような対応はスティグマとなる 95

96.

言葉が奪われやすい マイノリティの経験は マジョリティの経験とは似て非なるもの。 マジョリティの経験と言葉で 当事者特有の経験と言葉・視点が矮小化・無効化されやすい。 「よくあること」「大人になったら治るよ」 言葉を矮小化・無効化され続けると、過重なストレスとなる。 マジョリティの言葉で上書きして口を封じずに、 まず傾聴することが大切。 信頼関係 96

97.

マイノリティストレス マイクロアグレッションを日常生活の中で繰り返し何度も経験する環境。 スティグマ(負の烙印)となって蓄積される。 ✓自分のセクシュアリティを肯定的にとらえられない。 ✓自己肯定感や自尊心を育む機会をも得られない。 ✓ソーシャルサポートも不足している マイノリティ特有のストレスとなる 97

98.

マイノリティストレスを軽減するために なにができるのだろう? ✓学習機会を設ける ✓ホームルームなどで語る場を設ける ✓その場で、注意をする。 ✓精神的に孤立させない たとえ侮蔑や嘲笑していた人には届かなくても そこで耐え忍んでいる当事者の心には届く 98

99.

対応の基本事項の再確認 99

100.

対応の3つの基本 最初に戻ります。 ✓話を傾聴する。 ✓きめ細かな個別対応。 ✓アウティングしない。 ✓身体的にも精神的にも安全な環境 100

101.

学校 お互いを尊重し合える 安心安全な環境である場所であって欲しいです 2022.1.26 西田彩 office.saya@gmail.com 101

102.

【荻窪高校】卒業生にインタビュー③【多様性編】 https://www.youtube.com/watch?v=K7O1THzBYU4 102

103.

TBS - 性別違和のある子どもたち【報道特集】 https://www.youtube.com/watch?v=72UVgXxlwd4 103

104.

補足資料 性別移行について 当事者の生活実態を窺い知るための必要情報 104

105.

性別移行 (トランジション) 出生時に割り当てられた性別での身体特徴・社会生活から 性自認に従った身体特徴や社会生活を送るために行う様々なこと。 「出生時に割り当てられた性別を再び割り当て直すこと」 世間一般で語られるトランス対応では、性自認について語られることはあっ ても、性別移行の観点が抜けていることが多く、個別具体的に実現している 生活実態についての視点・論点がほとんど無い 「トランスジェンダー」という大きな主語でもって 抽象的で雑な言説を生み出している 105

106.

性自認とトイレ利用を直接結びつけてしまう 106

107.

世間で語られる「トランス女性 ✕ トイレ」の問題点 性自認の尊重=トイレ利用の尊重として直接結びつけて語られている ✓当事者は性自認のトイレを使うことが主目的ではなく、性自認に 従った生活・人生を送りたい。(性別を割り当て直したい) ✓そのためリスクを背負って性別移行を行う。 ✓性別移行のプロセスが進むなかにトイレ利用の話がでてくる。 このプロセスを知らないと、雑で抽象的で思考実験にしかならない 性別移行のプロセス抜きに、性自認に従った生活が築けてもいないのに、そ れらを飛び越えてセンシティブな場所であるトイレを使いたいという話にす ると、誤解や軋轢が生じるのは当然。 107

108.

性別移行とは 性別移行の3つの側面 1. 性表現の移行 服装・制服、髪型、言葉遣いなど、容姿・外見に現れる性別の移行や 性役割行動など 2. 性的特徴(身体特徴)の移行 ホルモン治療、性別適合手術、ヒゲ脱毛、胸オペ 整形手術、声帯の手術といった、医療措置に関わる性別の移行など 3. 社会的性別の移行 通称名使用や戸籍名変更といった名前・代名詞に関する移行 学校や職場での対応の変更、家族や周囲の人との関係の再構築をともなう移行 法的には戸籍性別変更など 108 本人目線では何も移行していない。自身に対する性別の割り当てを変えているだけ。

109.

性別移行にはプロセスがある 性別移行には年単位の時間が掛かる。 こうした性別移行のプロセスにおいて、中途半端な状態が生じる。 性別移行のなかに生活実態のリアルがある。 ここで直面する問題こそが「トイレ」 ↓ 既存のトイレを利用するうえで 個々の性別移行度と生活実態にそって きめ細かな対応が求められる。 性別移行済みで平穏な生活を営めている当事者を アウティングしないことは重要。 「今から女」と言うだけで、その日だけ服装を変えただけで 109 性別移行(性別の再割当て)が一瞬で終わることはない。

110.

性別移行が進んだら 公私ともに性別移行した生活を恒常的に築けている。 周囲からもその性別の人であると認識されている。 ↓ その生活実態に従った性別側のトイレ利用というのは 生活の一部にすぎない。 移行した生活実態においては、その人がトランス女性であるかどうか、 身体治療をうけているかどうかというのは、問題として語られることは ない。 トランスジェンダーという大きな主語を使い、 何らかの条件をつけて「許可」するという発想では、 人生や生活が奪われる当事者がでてくる。 110

111.

個人情報保護法における「要配慮個人情報」である 周囲に性別情報を秘匿した状態での学校・職場対応がされている。 これは「合理的な配慮」の範疇である。 性別移行した状態で平穏に社会生活を営む当事者でも 身体の状態に関しては様々。 そこで、手術の有無によって線引すれば、アウティングとなり プライバシーが他者に管理されることにもなる。 これによって、生活や人生が奪われてしまう。 性自認を含む性別情報や身体の状態、診断名など 個人情報保護法における高度な個人情報(要配慮個人情報) 111

112.

未成年当事者が置かれている身体治療の状況や実態 ・未成年者は性別適合手術は受けられない ・高額な自費治療であり、身体への侵襲が大きいので 成人年齢に達しても未手術が多い ・ホルモン治療は受けているケースがある つまり… 周囲に秘匿した学校対応を受けており、 ホルモン治療により容姿が大きく変化している当事者でも 外性器のみに関していえば出生時のまま ↓ 「外性器」というイメージだけで現実の当事者像が歪められる。 ネガティブな言説を浴びやすい・外性器基準での排除。 112

113.

想像上のトランスではなく、実例をもとに考えてみる 出生時の割り当ては男児で女性として生きている例 小学校〜大学まで 「周囲に秘匿した状態で女子児童・生徒として生活」 社会人 「周囲に秘匿した状態でOLとして勤務(まだ未手術)」 このように生活上において実現している性別において その生活に従った施設利用は正当な理由となるのでは? もし社会人になったとき 学生時代の性別扱いを無効にされて 男性器を理由に、身体男性者として女子トイレを禁じたら人権は? 113

114.

実際の姿 実は… トランス排除言説においては 友人女性が… 会社の同僚や上司・部下の女性が… 取引先の女性社員が… よく利用するお店の女性スタッフが… 近所の女性が… トランス女性であるといった可能性は想定されていない 生活や人生が奪われるのは、想像上の身体男性者ではなく そういった人たちでもある 114