MENU

エンジニアのためのサーバレス開発入門 – AWS Lambda活用からセキュリティ対策まで

急速に普及が進むサーバレス開発。AWSのLambdaを始めとするサービスによって、インフラ管理から解放され、ビジネスロジックに集中できる開発スタイルが注目されています。この記事では、サーバレスの基礎知識から実践的な開発手法、セキュリティ対策まで、段階的に解説します。

目次

☁️ サーバレスとは?クラウドとの違いを理解しよう

インフラ管理から解放されて、アプリケーション開発に集中できる ー それがサーバレスの本質的な価値です。実は物理的なサーバーは存在していますが、開発者はサーバー構築を意識する必要がありません。

サーバレスとクラウドの違い

従来のクラウドサービスでは、EC2などのサーバーインスタンスを用意して、OSの設定からセキュリティパッチの適用まで、様々なメンテナンス作業を行う必要がありました。でもサーバレスなら、そういった作業から完全に解放されます。

実例で見てみましょう。例えば1日100枚程度しか処理しない画像変換APIを作るとします。従来のクラウドなら、処理がなくても24時間365日サーバーを起動させておく必要がありました。一方サーバレスでは、画像がアップロードされた時だけ処理を実行。使っていない時間のコストがゼロになります。

PaaSとの違いを理解する

同じように「サーバー管理不要」を謳うPaaS(Platform as a Service)との違いもポイントです。PaaSでも確かにサーバー管理は不要ですが、PaaSは常に一定のリソースを確保しておく必要があります。これに対してサーバレスは、多くの場合FaaS(Function as a Service)と呼ばれ、処理が必要な時だけ1回ごとにリソースが割り当てられ、終わったら即座に解放されます。まさに「必要な時だけ」のオンデマンドな実行環境といえます。
ただし、PaaSやマネージドサービスも大枠としてサーバレス技術に含める場合もありますので、各クラウドの解説を参照しましょう。

サーバレスのメリット

  • インフラ管理から解放され、開発に集中できる
  • 使った分だけの従量課金で、コスト最適化が図れる
  • 自動的なスケーリングにより、トラフィック変動に柔軟に対応できる

例えば、ECサイトの年末商戦につかうランキングAPI。従来なら「どれくらいのアクセスが来るかな…」と悩みながらサーバーを増強する必要がありました。サーバレスなら自動でスケールするので、その心配は不要。スタートアップからエンタープライズまで、幅広いプロジェクトで採用されている理由がここにあります。

🛠️ AWSサーバレスサービスの全体像

「サーバーの構築や運用って大変そう…」そんな悩みを解決するのが、サーバレスのサービス群です。AWSやGoogle Cloud、Azureなど様々なクラウドがありますが、ここではAWSの例を紹介しましょう。AWS Lambdaを中心に、様々なマネージドサービスを組み合わせることで、インフラ管理なしでスケーラブルなアプリケーションが作れます。

AWS Lambdaの基本

AWS Lambdaは、コードを書いて関数として登録するだけで実行環境が用意される便利なサービスです。例えば、Node.jsやPython、Javaなど、好きなプログラミング言語が選べます。メモリも128MBから10GBまで柔軟に選択可能で、最大15分間の処理時間が使えます。アプリケーションの要件に応じて、適切なスペックを選ぶことができるんです。

サーバレスアプリケーションを支える主要サービス

実用的なアプリケーションを作るには、以下のようなマネージドサービスを組み合わせます:

  • API Gateway:HTTPリクエストの受付とルーティング
  • DynamoDB:高速なNoSQLデータベース
  • S3:大容量ファイルストレージ
  • EventBridge:サービス間の連携とスケジューリング
  • Cognito:ユーザー認証基盤

「固定費を抑えた」料金の考え方

サーバレスの料金体系は「使った分だけ」が基本です。例えば、1日100回しか呼ばれないAPIなら、その100回分の実行時間だけが課金対象。Lambda関数の実行時間、API GatewayのAPIコール数、DynamoDBのデータ量など、リソースの利用量に応じて料金が決まります。ですので、せっかくLambdaを活用しても、DBをRDSなど固定料金・固定スペックの製品と併用すると、コストとスケールのメリットが生かせません。

実装とデプロイのベストプラクティス

サーバレスの開発効率を上げるなら、Infrastructure as Code(IaC)の活用がポイントです。AWS SAMやServerless Frameworkを使えば、YAMLファイル一つでインフラの構成管理ができます。さらに、AWS CDKならTypeScriptやPythonでインフラをコード化できるため、より柔軟な構成管理が可能になります。

例えば、画像リサイズサービスを作る場合。S3に画像がアップロードされたらLambdaが起動し、サイズ変換してDynamoDBに結果を保存する。このような一連の処理を、数十行のコードで実現できます。AWSのマネージドサービスを上手く組み合わせることで、複雑な要件も効率的に実装できるんです。

🤔 サーバレス開発の向き不向きを知る

「サーバレス最高!」とよく聞きますが、実際のプロジェクトでは得意・不得意をしっかり見極める必要があります。開発効率を上げられるケースもあれば、むしろ複雑になってしまうケースもあるんです。

サーバレスが得意とする場面

まず、イベントドリブンな処理との相性は抜群です。例えば、ユーザーが1日数百枚アップロードする画像の自動リサイズ処理。従来のサーバーだと「普段は暇だけど、たまに負荷が跳ね上がる」という無駄の多い構成になりがちです。サーバレスなら、アップロードされた時だけ処理が走るので理想的。他にも、IoTデバイスからの不定期なデータ収集や、ECサイトの在庫チェックAPIなど、「イベントの発生=処理の実行」というパターンと好相性です。

開発効率とコストの両立

サーバレスの価値は、サーバー管理からの解放だけじゃありません。例えば「チーム全員がインフラの専門家である必要がない」という点。Lambda関数単位で開発を進められるので、各メンバーは担当機能の実装に集中できます。さらに従量課金なので、プロトタイプ開発時の固定費を抑えられるのも大きな利点。アクセスがまだ少ないスタートアップフェーズでは、特にこのメリットが活きてきます。

気をつけたい制約とデメリット

とはいえ、オンラインゲームのマッチングサーバーのように「ミリ秒単位のレイテンシーが重要」な処理や、データ分析基盤のように「数時間単位の重い処理」が必要なケースでは不向きです。また、クラウド内に用意されたサービス同士を連動させるので依存度が高くなりがちで、将来的なクラウド移行の可能性がある場合は要注意。Lambda関数の15分制限や、コールドスタート問題も、アーキテクチャ設計時の重要な考慮ポイントになります。

現実的な使い分けのコツ

結局のところ、オールorナッシングでサーバレスを選ぶ必要はありません。例えば、Webアプリのバックエンドはコンテナで構築しつつ、画像処理やバッチ処理だけサーバレスで、という具合です。マイクロサービスアーキテクチャと組み合わせれば、機能ごとに最適な実装方式を選べます。ただし「Lambda関数が100個」みたいな状況は避けたいので、適度なサービス分割粒度を意識しましょう。

サーバレスの導入は「できること」より「やるべきこと」で判断。まずは小規模な非同期処理から始めて、徐々に適用範囲を広げていくのが、多くのプロジェクトで成功するコツです。

🔨 実践!サーバレスWebアプリケーションの設計と実装

サーバレスWebアプリの設計で肝となるのが、フロントエンドとバックエンドの適切な分離設計です。この章では、実際の現場でよく使われるアーキテクチャと実装のポイントを見ていきましょう。

基本的なアーキテクチャパターン

サーバレスWebアプリの定番構成は、フロントエンドがある場合はReactやVue.jsなどのSPA、バックエンドにAPI Gateway + Lambdaという組み合わせです。画像やJSファイルなどの静的コンテンツはS3に置いて、CloudFrontで世界中に配信。データベースにはDynamoDBを採用するケースが多いですね。

ドクセルにおける実装例のスライドとして、dyoshikawa氏の「AWSサーバレス上にChatGPT LINEボットを構築する」は参考になります。フロントはありませんが、チャットボットもユーザからの送信というイベントベースの動作になるため、サーバレスが最も相性のいい分野です。プロダクション環境での実践的なアーキテクチャ構成が詳しく解説されています。

開発環境とローカルテスト

開発効率を上げるなら、ローカル環境でのテストが不可欠です。AWS SAM LocalやServerless Frameworkを使えば、本番に近い環境でのテストが可能。Infrastructure as Codeツールはaws-cdkが人気で、TypeScriptで型安全な環境構築ができます。「ローカルで動いたのに本番で動かない」といったトラブルを防げますよ。ほかのクラウドにも同様のツールセットが用意されています。

フロントエンド実装のコツ

フロントエンドでは、API Gatewayとの通信を担当するサービス層をきちんと分離します。ネットワークエラーの際の自動リトライや、トークン切れの際の再取得など、運用を見据えた実装がポイント。認証はCognitoを使えば、セキュアな実装が最小限の工数で実現できます。

バックエンド設計のベストプラクティス

Lambda関数は「1つの関数に1つの責任」を徹底します。例えば、ユーザー情報の取得と更新は別々の関数に分けるイメージです。設定値は環境変数やパラメータストアで管理し、ハードコーディングは避けましょう。DynamoDBのテーブル設計では、「どんなクエリが必要か」を先に考えてからキーを決めるのがコツです。

自動デプロイの構築

本番運用を見据えるなら、AWS CodePipelineとCodeBuildで自動デプロイの仕組みを整えましょう。開発→ステージング→本番という3段階の環境を用意し、テストを通過したコードだけが次の環境にデプロイされる流れを作ります。これで安全かつ効率的なリリースが実現できます。

本番運用を見据えた監視体制

CloudWatchでLambdaの実行時間やエラー率、APIのレスポンスタイムを監視します。分散トレーシングにはX-Rayが便利で、サービス間の依存関係や処理の流れを可視化できます。アラートは「平日の営業時間だけ通知」といった具合に、運用チームの体制に合わせて設定するのがポイントです。

🧪 サーバレスアプリケーションのテスト戦略

サーバレス環境でのテストは、コンポーネントごとの独立性を活かした効率的な検証がポイントです。通常のアプリケーションとは異なり、AWSサービス間の連携も含めた包括的なテスト戦略が必要になります。

効果的なテスト設計の実践例として、dyoshikawa氏の「テストピラミッドで考える、継続するAWSサーバレスアプリケーション自動テスト」が参考になります。実際の現場での知見が詳しく解説されています。

サーバレスではどうしてもクラウドの機能を組み合わせるため、ローカルでテストしたいときに複雑な構築が必要になりがちです。それよりも先にユニットテストやSmallサイズのテストでカバレッジ(面積)をあげようといった現実的な進め方にあふれていますね!

ロジックの品質を支えるユニットテスト

Lambda関数で書くコアロジックは、AWSサービスから切り離してテストできます。例えば、ユーザー登録処理のバリデーションロジックなら、DynamoDBへの保存部分をモック化して、純粋なバリデーションだけをテスト。Jestなどのフレームワークを使えば、高速で信頼性の高いテストが実現できます。

サービス間連携の検証

API GatewayからLambda、DynamoDBまでの一連の流れは、AWS SAM Localで検証します。ローカル環境でも本番相当の動作確認ができるため、デプロイ後のトラブルを未然に防げます。ただし、実行に時間がかかるので、CIパイプラインでは重要な連携パターンに絞るのがコツです。

シナリオベースの総合テスト

フロントエンドからバックエンドまでを通した検証には、Cypressが便利です。ユーザー登録から決済までの一連のフローなど、重要な業務シナリオに焦点を当てましょう。全機能を網羅すると保守コストが跳ね上がるので、優先度の高いシナリオから始めるのが得策です。

効率的なテスト環境の運用

開発・テスト・本番の各環境は、aws-cdkで一貫して管理します。環境変数やIAMロールの設定も自動化することで、「テストは通ったのに本番で動かない」といったトラブルを防げます。同時に、環境ごとのコストも監視しやすくなります。

テスト結果の分析と改善

CloudWatchLogsに集約したテスト結果は、ダッシュボードで可視化すると効果的です。「どの機能のテストが失敗しやすいか」「実行時間の傾向」など、改善ポイントが見えやすくなります。エラーログの形式を統一しておけば、トラブルシューティングも素早く行えます。

性能検証の進め方

コールドスタートの影響や、同時リクエスト時の挙動は、Artillery等での負荷テストで確認します。「平日の昼休み時の注文急増」といった実運用シナリオを想定したテストケースを用意することで、本番稼働後のパフォーマンス問題を最小限に抑えられます。

🔒 サーバレス環境におけるセキュリティ対策

インフラ管理からの解放は魅力的ですが、サーバレス特有のセキュリティリスクへの対策は欠かせません。a_zara_n氏による「コンテキストを読み解き進めるモダンWebセキュリティ入門」では、サーバレスアプリケーションも含めた、これまでのアプリケーションの変遷や、その中での脆弱性と対策が詳しく解説されています。

サーバレスに限らないものの、さまざまなシステムを組み合わせるにあたり見落としがちなポイントも網羅されているので、おすすめの資料です。


IAM権限は最小限に

Lambda関数に必要以上の権限を付与すると、思わぬセキュリティホールになりかねません。例えば、特定のDynamoDBテーブルの参照だけを行う関数に、全テーブルへの書き込み権限を与えてしまうようなケース。機能単位で必要最小限のIAM権限を設定し、意図しない操作を防ぎましょう。

堅牢な認証認可の実装

API Gateway + Cognitoの組み合わせで、セキュアなエンドポイント管理が実現できます。決済処理など重要な操作には多要素認証を組み込み、カスタムオーソライザーでアクセス制御をきめ細かく設定。不正利用のリスクを最小限に抑えられます。

データ保護の基本戦略

機密性の高いデータはAWS KMSで暗号化するのが基本です。環境変数に認証情報を格納する際も同様です。DynamoDBやS3のデータも、用途に応じて暗号化を検討。「暗号化して当然」という意識で設計を進めましょう。

マイクロサービス間の安全な通信

Lambda関数同士を直接HTTP通信で繋ぐのはリスクが高いもの。代わりにEventBridgeやSQSといったマネージドサービスを活用することで、より安全なメッセージング基盤が構築できます。特に非同期処理との相性が抜群です。

監査証跡の確保

CloudTrailとCloudWatchLogsを組み合わせれば、誰が何をしたのか、完全な監査証跡が残せます。例えば「深夜に大量のデータが削除された」といった不審な操作も、ログ分析で素早くキャッチできるようになります。

ライブラリの脆弱性管理

npmやPythonの依存パッケージには、既知の脆弱性が潜んでいることも。定期的なアップデートとセキュリティスキャンを習慣化し、問題のある依存関係は早めに特定・修正することが重要です。例えば、AWS CodeBuildにGitHub Security Alertsを組み込むのも効果的です。

インシデント対応の自動化

セキュリティ問題が発生した際の対応手順は、できるだけ自動化しておきましょう。Lambda関数のバージョン管理とCloudFormationスタックの履歴を活用すれば、問題のあるデプロイを即座にロールバックできる体制が整います。「手順書を見ながら手動で戻す」といった対応は避けたいところです。

今回は、サーバレスアプリケーション、特にAWSのLambdaを中心に解説してみました。インフラ構築作業が不要になったことで、アプリケーションの構築に集中できるサーバレス環境での開発はとても魅力的です。ですが、向き不向きやテストやセキュリティなど運用面でもこれまでのサーバ構築と異なる知識が必要な面もありますので、ドクセルのスライドでぜひ学んでみましょう!

「サーバレス」のスライド一覧:

https://docswell.com/search?q=%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%AC%E3%82%B9

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次