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March 28, 23
スライド概要
第二世代船舶復原性基準の中で対象となる、パラメトリック横揺れについて解説をしています。
大阪大学 工学研究科 地球総合工学専攻 船舶海洋工学部門 船舶知能化領域です. 研究室の発表スライドなどを共有します. We are Ship Intelligentization Subarea, Dept. of Naval Architecture & Ocean Engineering, Div. of Global Architecture, Graduate School of Engineering, Osaka University.
パラメトリック横揺れ 国立大学法人 大阪大学 大学院工学研究科 地球総合工学専攻 船舶工学講座 教授 梅田 直哉
第2世代非損傷時復原性基準 1. 追波中復原力喪失現象 2. パラメトリック横揺れ 3. ブローチング現象 4. デッドシップ状態の同調横揺れ 5. 過大加速度
第2世代非損傷時復原性基準の必要性 C11級ポストパナマックスコンテナ船(5100TEU)の向波 中パラメトリック横揺れによるコンテナ損傷事故(1998 年 北太平洋) LBP=262m, B=40m, d=12.34m, GM=2.0m, Tφ=25.7s Hs=14.9m, Tp=16.4s 35~40度の横揺れにより、1300の搭載コンテナの1/3を船 外流出、1/3を損傷。 Ref: France, W.N. et al.: Marine Technology, 40(1), 2003
14000TEU コンテナ船 ONE APUS (2020年12月) © 若林伸和 ワン・アパスは中国塩田港(深セン)から米国ロングビーチ港に向けて航行していた 11月30日夜、ハワイの北西沖1600カイリの海域で嵐に遭遇。危険物コンテナ64本を 含む1816本のコンテナが海上に流出して失い、行き先を神戸港に修正して航行を 続け、8日同港に入港した。(ロジスティック ツデイより)
パラメトリック横揺れ N. Umeda, et al. JSNAJ (1995)
小型漁船 波岨度=1/20 波長=船長 p = ρgζ − ρgζ a e −kζ cos k (ξ − ct) p ≈ ρ gζ − ρ gζ a cos k (ξ − ct ) 梅田直哉:漁船 258(1985)
パラメトリック横揺れのメカニズム 出会い波周期×2≒ 横揺れ固有周期 横揺れ 復原力の強さ 波の谷 波の山
λ/L=1.3 H/λ=0.03 Fn=0.036 ωΦ/ωe=0.482 30 (degrees) 20 10 30 0 20 (degrees) 10 0 -10 -20620 610 0 200 630 640 650 400 660 670 680 600 690 -10 -20 -30 -30 time(seconds) time(seconds) 800 1000 roll pitch
縦波中のパラメトリック横揺れ 2 ̈ 𝜙𝜙+2𝛼𝛼 𝜙𝜙̇ + 𝜔𝜔𝜙𝜙 1 + 𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝑏𝜔𝜔𝑒𝑒 𝑡𝑡 𝜙𝜙 = 0
𝑏𝑏 > 2 1− 𝜔𝜔 𝜔𝜔𝜙𝜙 2 2 +4 𝛼𝛼 𝜔𝜔𝜙𝜙 2 𝜔𝜔 𝜔𝜔𝜙𝜙 2
𝑏𝑏 = 2 1− 𝜔𝜔 𝜔𝜔𝜙𝜙 2 2 +4 𝛼𝛼0 +𝛽𝛽0 𝜙𝜙0 𝜔𝜔𝜙𝜙 2 𝜔𝜔 𝜔𝜔𝜙𝜙 2 これを解くと、横揺れ振幅𝜙𝜙0 がωの関数として求まる。 例えば、𝜔𝜔 = 𝜔𝜔𝜙𝜙 b=4 では、 𝛼𝛼0 +𝛽𝛽0 𝜙𝜙0 𝜔𝜔𝜙𝜙 1 𝑏𝑏𝜔𝜔𝜙𝜙 𝜙𝜙0 = 4 𝛽𝛽0 − 𝛼𝛼0 これが最大横揺れ振幅となる。ただし復原力は線形と仮定 。レべル2基準では、復原力の非線形性も考慮したより複雑 な式を用いている。
パラメトリック横揺れの基準 簡易基準 レベル1 パラメトリック横揺れの発生条件の計算式 ここで、 𝛿𝛿GM ∝ <4 GM 𝜔𝜔𝜙𝜙 ∝ :線形横揺れ減衰力係数(池田の簡易推定法をさらに簡略化して、ビルジ キール面積とCmの関数として与える)、 δGM: GM変動の片振幅(波振幅だけ喫水が上下したときのGMの変化を ハイドロカーブから読み取る:波岨度は0.0167)、 𝜔𝜔𝜙𝜙 : 横揺れ固有周波数
パラメトリック横揺れの基準 簡易基準 レベル2 チェック1 パラメトリック横揺れの発生条件 𝛿𝛿GM ∝ <4 GM 𝜔𝜔𝜙𝜙 を満たし、出会い波周期が横揺れ固有周期の1/2となる船速VPRの絶対値よりも 航海船速が低いこと。 T𝜙𝜙 𝜆𝜆 = 2 𝑔𝑔𝜆𝜆 − 𝑉𝑉𝑃𝑃𝑃𝑃 2𝜋𝜋 上記の検討を、16の代表的な規則波(波浪頻度表の各波周期について、有義 波高の平均値を代表として選定)に適用し、不合格となる波条件の重み平均値 C1が、0.06以下であれば、合格と判定。 (C11級コンテナ船を不合格とするようにこの要求値を決定)
パラメトリック横揺れの基準 簡易基準 レベル2 チェック2 2 ̈ 𝜙𝜙+2𝛼𝛼 𝜙𝜙̇ + 𝛾𝛾𝜙𝜙̇ 3 + 𝜔𝜔𝜙𝜙 ここで、 1 𝐺𝐺𝐺𝐺 𝐺𝐺𝐺𝐺 𝜙𝜙, 𝑡𝑡 = 0 α, γ: 横揺れ減衰力係数(標準としては池田の簡易推定法で算出) GZ: 波浪中の復原てこ 上記の運動方程式を、ルンゲクッタ法により、初期横揺れ角5度、初期横揺れ角速 度0で解き、定常横揺れ振幅を求める。
横揺れ減衰力の推定(池田の方法) B44=BF+ BW + BE + BBK + BL (等価線形横揺れ減衰係数) 上記を回帰分析により、船型詳細でなく、主要目のみで利用可としたものが、簡易推定法
パラメトリック横揺れの基準 北大西洋の波浪頻度表における各有義波高、平均波周期の組み合 わせに、グリムの有効波の考え方で、1/3最大有効波高を計算する。 その波高の頂が船体中央にあって波長=船長の時の余弦波の中での GZ曲線を船舶算法的に計算する。 そのGZ曲線を用いて、 運動方程式の数値解で求まった定常横揺れ振幅が25度以上なら ば、CSi=1 北大西洋の波浪頻度を用いて、 Csiを重み平均し、C2 F𝑛𝑛 , 𝛽𝛽 とする。 そのうえで、航海船速で25種の波向きで航行するケースを、追波 と向波を区別のうえ、船速の方向余弦として船速に換算して C2 F𝑛𝑛 , 𝛽𝛽 を平均し、C2とする。 このC2が0.025以下であれば、合格とする。 (C11級コンテナ船を不合格とするようにこの要求値を決定)
直接復原性評価(阪大) 短波頂不規則波中の時間領域シミュレーション 5自由度(sway-heave-roll-pitch-yaw)+オートパイロットモデル Surge方向は指定速度で一定で進むと近似(波浪中抵抗増加の推定と切り 離すため) 高周波数であるため、ストリップ法に、復原力変動項を付加 浮力成分は波面まで、フルードクリロフ成分は静止水面まで時々刻々の船 体姿勢を考慮して圧力積分。 ラディエーション成分は、縦運動は出会い波ピーク周波数、横運動は横揺 れ固有周波数に対して計算。ディフラクション成分はSTFM。いずれも船 体姿勢は直立。 平水中の操縦流体力、横揺れ減衰力、プロペラ性能は模型実験による
パラメトリック横揺れ (長波頂不規則波)
パラメトリック横揺れ (長波頂不規則波:実験と計算の比較) Experiment Simulation Average 50 roll angle (deg.) 40 30 20 10 0 0 0.025 0.05 Froude number 0.075 0.1 H. Hashimoto & N. Umeda: Fluid Mechanics and its Application, Springer, 119, 2019
パラメトリック横揺れ (短波頂不規則波)
パラメトリック横揺れ (短波頂不規則波:実験と計算の比較) Χ=180度 Χ=150度 岡祥広 阪大修論(2022)より
パラメトリック横揺れ基準の 設計影響 26隻の国内での試計算結果より、第1、第2 段階基準に不合格となるのは、 コンテナ船:L=348mではGM=0.5mのみ 、L=262mではGM=4.2m以下。 PCC:L=190mではGM=2m以下、L= 183.7mはGM=1.8m以下 その他は合格 Ref: IMO,: SDC5/INF.4, Annex 17, 2017