新潟医学会 特別講演

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June 18, 23

スライド概要

新潟医学会総会(2023年6月17日)の特別講演で使用したスライドです.認知症の新しい危険因子であるCOVID-19の発症機序とその対策について最新の情報をまとめました.

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岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野 教授

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関連スライド

各ページのテキスト
1.

Long COVIDとしての認知症 ーその病態と対策ー 下畑 享良 岐阜大学大学院医学系研究科 脳神経内科学分野

2.

COI 開示 発表者:下畑 享良 岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野・教授 演題発表に関連し,明示すべきCOI関係にある企業などは ありません.

3.

COVID-19の急性期の 神経症状

4.

急性期神経筋症状の 頻度と種類 Mao et al. JAMA Neurol 2020 Romero-Sánchez et al. Neurology 2020 Moro et al. Eur J Neurol 2020 • 神経筋症状の頻度に関しては,2020年に複数の大規模な報告 がなされ,36.4%~57.4%と高頻度にみられる(SARS-CoV-2ウイ ルスは脳や神経に親和性が高い;神経向性 neurotropism). • 具体的には,めまい,頭痛,筋障害,嗅覚・味覚障害等がある. • 重症患者では,脳血管障害,脳炎・脳症などの神経合併症を 呈しうる.

5.

神経合併症は年齢により異なる Brain. 2022 Sep 10:awac332. doi: 10.1093/brain/awac332. 脳卒中 痙攣 中枢神経感染症 年齢 • 2020年1月~2021年5月まで,世界1507施設で行われた前向き観察研究. 対象は入院し,神経症状・合併症を呈した成人15万8267人,小児2972人. • 成人では脳卒中リスクが上昇し,小児では中枢神経系感染症/痙攣が多い (小児の脳も影響をうける).

6.

ISC2023 Late breaking

7.

神経合併症は 死亡リスクが高い. JAMA Netw Open. 2021;4(5):e2112131. (doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2021.12131) Eur J Neurol. Oct 31, 2022 (doi.org/10.1111/ene.15617) • 「COVID-19の神経症状に関するグローバルコンソーシアム研究 (GCS-NeuroCOVID)」および「欧州神経学会Neuro-COVIDレジス トリ(ENERGY)」という2大コホートからの2021年の報告. • 多い神経合併症は,急性脳症(49%),昏睡(17%),脳卒中 (6%)で,死亡と関連した(オッズ比,5.99). • 現在は認知症がもっとも多い神経合併症として認識されている.

8.

オミクロン株になって脳炎は減ったが・・・ (20代女性・膠原病 ワクチン未接種) 発熱にて発症.2日めに意識障害

9.

急性壊死性脳症にて救命できず 発症3日目 投稿中

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Long COVID

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Long COVID WHOによる定義 A clinical case definition of post COVID-19 condition by a Delphi consensus, Oct. 6, 2021(https://bit.ly/3GdixCb) • SARS-CoV-2感染の可能性が高い,また は確定した既往歴のある人が,発症から 通常3ヵ月後に,少なくとも2ヵ月間持続 する症状を持ち,他の診断では説明でき ない場合に生じる.

12.

Long COVIDに関する用語 JAMA. Aug 3, 2022 (doi.org/10.1001/jama.2022.1 4089) 用語 意義 post-COVID-19 condition (PCC) ウイルスの直接的・間接 臨床現場,医療制 postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection (PASC) 使用される領域 的な影響による病気を 度への負担の評価, とらえる広義の用語 サーベイランス ウイルスの直接的影響に 臨床現場 より病気をとらえる狭義 の用語 (例:neuro-PASC)

13.

6ヶ月で改善しない患者群では 長期間,症状が持続する Ballouz T et al. BMJ 2023;381:e074425

14.

20歳代にピークがあり, 働き盛りにかけて多く,女性優位 女性 medRxiv. 2022 May 27:2022.05.26.22275532 (doi.org/10.1101/2022.05.26.2227 5532) 男性

15.

Long COVIDの3分類と頻度 medRxiv. 2022 May 27:2022.05.26.22275532 (doi.org/10.1101/2022.05.26.2227 5532) 10カ国で進行中のコホート 研究(1906人の感染者と 1052人の入院患者). 3万7262件の市中感染と 9540件の入院患者に関する 公表データ, 130万件の感染に関するICD コード化された医療記録 データを追加. 呼吸障害 疲労 認知障害 60.4% 51.0% 35.4%

16.

PASC スコアができた (カットオフ値12) RECOVER研究 米国85の施設において COVID-19の既往がある 8646人と未感染者1118人 を登録し,有意差を認める 13症状を決定. Tanayott T et al. JAMA. May 25, 2023. doi:10.1001/jama.2023.8823 Log odds ratio スコア 嗅覚・味覚障害 0.766 8 労作後倦怠感 0.674 7 慢性咳嗽 0.438 4 ブレインフォグ 0.325 3 口渇 0.255 3 動悸 0.238 2 胸痛 0.233 2 疲労 0.148 1 性欲・性能力減退 0.126 1 めまい 0.121 1 胃腸症状 0.085 1 運動異常症 0.072 1 脱毛 0.049 0

17.

ブレインフォグは単一の症状ではない 英国の掲示板型ソー シャルニュースサイト Redditから「brain fog」を 含む投稿で,一人称で 自分の症状を書いた 141件を解析. McWhirter L et al. What is brain fog? J Neurol Neurosurg Psychiat 2023;94:321-325.

18.

オミクロン株ではデルタ株と比べ long COVIDは少ない • 英国における変異株によるlong COVIDの 相対比率を検討した研究. • デルタ株で10.8%(4469/41361人),オミクロ ン株で4.5%(2501/56003人),オミクロン株 で少なかった. • ワクチンの接種時期を考慮するとオミクロ ン株ではデルタ株よりオッズ比で0.24~0.5 と低くなる. • しかし感染者がオミクロン株で圧倒的に 多いため,罹患者は必然的に増加する. Lancet. June 18, 2022 (doi.org/10.1016/S01406736(22)00941-2)

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今後,呼吸器疾患から神経疾患としての側面が重要になる COVID-19 と認知症 臨床研究 画像研究 病態研究 治療研究

20.

注目される臨床研究

21.

感染1年後のアルツハイマー病の リスクはハザード比 2.03と高い 米国退役軍人省データベース COVID-19患者 15万4068人 健常対照 563万8795人 歴史的対照 585万9621人 12ヵ月後におけるハザード比 全神経学的後遺症 1.42 認知・記憶障害 1.77 アルツハイマー病 2.03 e4/4 11.2, 高血圧 1.97,頭部外傷 1.5, DM 1.3-1.6 Nat Med. 2022 Sep 22. (doi.org/10.1038/s41591-02202001-z)

22.

認知症やブレインフォグの リスクは持続する(vs インフルエンザ) うつ症状 認知症 ブレインフォグ Lancet Psychiatry. Aug 17, 2022. doi:https://doi.org/10.1016/S2 215-0366(22)00260-7 128万人以上の国際的コホートに対する後方視的検討 COVID-19対一般的な呼吸器感染症の比較

23.

認知症やブレインフォグの リスクは持続する(vs インフルエンザ) うつ症状 認知症 ブレインフォグ Lancet Psychiatry. Aug 17, 2022. doi:https://doi.org/10.1016/S2 215-0366(22)00260-7 128万人以上の国際的コホートに対する後方視的検討 COVID-19対一般的な呼吸器感染症の比較

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1年以内に改善する後遺症もあるが 神経症状は改善しにくい イスラエル191万人以上の 感染者MHRの後方視的検討 認知症ハザード比 半年 1.85 1年 1.69 BMJ 2023;380:e072529

25.

認知症をきたしやすい患者は? 1.高齢者 2.急性期が重篤 3.持続的な嗅覚障害

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武漢で60歳以上の入院患者の 認知症のリスクは上昇する JAMA Neurol. March 8, 2022 (doi.org/10.1001/jamaneuro l.2022.0461) • 感染後生存者1438名と対照438名 の12ヵ月後の認知機能を評価した. • 認知症の有病率 12.4%. • 重症例ではTelephone Interview of Cognitive Status-40スコアが 非重症例および対照よりも低かった. 対照 非重症 重症

27.

持続的な嗅覚障害は 認知症の予測因子である AAIC 2022 (Alzheimer’s Association International Conference) • アルゼンチンにてMHRより成人766名(55〜95歳)を抽出し, 1年間,前向きに追跡した(感染者88.4%,対照11.6%). • 持続的嗅覚障害は感染者の40%であったが,3か月過ぎて 持続する場合,認知機能障害がおよそ1.5倍高くなること が示された.

28.

ノルウェーの自宅療養の軽症者でも 6ヶ月後の記憶障害は多い Nature. June 23, 2021 (doi.org/10.1038/s41591-02101433-3) 全年齢 (247名) 0-15歳 (16名) 16-30歳 (61名) 31-45歳 (58名) 46-60歳 (67名) 60歳以上 (45名) 何らかの 症状 55% 13% 52% 59% 61% 60% 呼吸困難 15% 0% 13% 17% 18% 18% 味覚・ 嗅覚障害 27% 13% 28% 34% 28% 20% 記憶障害 18% 未評価 11% 16% 22% 24% 疲労 30% 未評価 21% 31% 33% 36% 高齢は危険因子だが,若い世代でも記憶障害も生じうる.

29.

軽症感染の18-60歳において 4人に1人が視空間認知障害を呈する Mol Psychiatry. 2023 Feb;28(2):553-563. • ブラジル軽症感染者(回復後4ヶ月以降)の高次脳機能を検討. 健常者と比較し,レイ複雑図形検査異常が顕著に多い(26%対6%) → 視空間認知再構成機能や視覚記憶機能の障害 • これらは白質体積と糖代謝と逆相関,血液炎症マーカーと相関.

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小括1 • COVID-19はアルツハイマー病のリスクを 2倍程度 上昇させ,そのリスクは1年以上持続する. • 認知症を来しやすい要因として,高齢者,重症感染, 3ヶ月以上の嗅覚障害が報告されている. • 軽症感染でも(気が付かないだけで)高次脳機能に 影響が生じている可能性がある→感染を避けるべき.

31.

注目される画像研究

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感染4か月半後,とくに高齢者で 眼窩前頭皮質などの萎縮が生じている. Nature march 7, 2022 (doi.org/10.1038/s41586 -022-04569-5) • UK Biobankに登録された51~81歳で, 感染前後の頭部MRI検査を比較した • 感染者401名と対照384名. (i) 対照 眼窩前頭皮質*,および海馬傍回の 灰白質厚および組織コントラストの 大幅な減少 (ii) 全脳サイズの大幅な減少 (iii) 対照より顕著な認知機能低下 感染者 (iv) これらの変化は,入院患者15名を 除いても確認された. *味覚・嗅覚を含む感覚,情動,意思決定,ストレス耐性

33.

眼窩前頭皮質では組織損傷と 主にアストロサイトに感染を認める Proc Natl Acad Sci U S A. 2022 Aug 30;119(35):e2200960119 (doi.org/10.1073/pnas.22 00960119) • ワシントン大学の報告. COVID-19で死亡した26人から採取 した眼窩前頭領域*の脳組織で, 5人に組織傷害を認め, 全例でウイ ルス遺伝物質を認めた. • 全細胞の37%がスパイク蛋白陽性, 特にアストロサイトに多かった.

34.

マカクザルの感染実験で老齢ザルでは 感染が嗅球から眼窩前頭皮質に及ぶ Cell Reports. Oct 12, 2022 (doi.org/10.1016/j.celrep. 2022.111573) 若年 老齢 高解像度顕微鏡

35.

嗅覚伝導路の異常信号は パンデミック当初から報告されていた① 25歳放射線技師,無嗅症発症1日後のMRI所見 ウイルスの嗅球と直回への侵入 JAMA Neurol. May 29, 2020 (doi:10.1001/jamaneurol.2020.2125)

36.

嗅覚伝導路の異常信号は パンデミック当初から報告されていた② 96歳女性 発熱と全身けいれんにて入 院.入院2日前から,嗅覚 消失,意識障害,行動異常. 造影効果なし FLAIR DWI ADC 1.直回 2.前帯状回 3.第一前頭回極部 4.梨状皮質 5.扁桃体 6.前部海馬 Neurology 2021, 96; e645-e646

37.

軽症感染患者の脳では 変化は生じているのか? Neurology. 2022 Dec 16:10.1212/WNL.0000000000201682. • 難治性てんかんに対する焦点切除術目的に 入院した症例 • 入院中に院内感染.発熱・呼吸器症状のみで 改善(中枢神経症状なし) • 感染後17日目に予定していた焦点切除術を 施行.切除した脳を調べたところ・・・

38.

軽症感染でも脳の微小血管に 炎症が生じていた! Neurology. 2022 Dec 16:10.1212/WNL.0000000000201682. 後遺症として長期の頭痛を呈する患者でもこのような変化が生じている?

39.

小括2 • 高齢者では感染後,眼窩前頭皮質の萎縮や機能障害 が生じうる. • 嗅球から眼窩前頭皮質までの嗅覚伝導路にウイルス 感染や炎症の伝播が生じる可能性がある. • ヒトの軽症感染でも脳血管に炎症が生じていることが 示された.

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注目される病態研究

41.

6つの病態が複雑に関与する ①持続感染 ③腸内細菌叢への影響 ⑤微小血管血栓症 Nat Rev Microbiol. 2023 Jan 13:1–14. (doi.org/10.1038/s41579-022-00846-2) ②ウイルス再活性化(EBV,HHV-6) ④自己免疫 ⑥脳幹・迷走神経の機能障害

42.

EVウイルス再活性化と疲労 EBV再活性化を示唆する 血清学的証拠(早期抗 原拡散IgG陽性)は疲労 と強く関連(OR = 2.12) CJ Clin Invest. 2023 Feb 1;133(3):e163669

43.

持続感染説の端緒 ウイルススパイク蛋白が感染1年後の血漿に認められる 急性COVIDのみ 26名 Clin Infect Dis. 2023 Feb 8;76(3):e487-e490. Long COVID 37名 月 S1サブユニット 月 スパイク蛋白(S) 月 ヌクレオカプシド(N) 驚くべきことに,SARS-CoV-2陽性診断から数ヶ月後でも,PASC患者のほぼ65%で S,S1,Nのいずれかが検出された(Sは60%で検出)

44.

ウイルスはどこにいる? Viral reservoir RNAウイルスが感染後に残存する 組織としては,神経系,眼,関節, リンパ節,心臓,呼吸器,精巣など Pathogen-associated molecular pattern molecules 感染によって微生物から放出され,宿主の一連 の免疫反応,炎症反応をひき起こす分子 PLoS Biol. 2022;20:e3001687.

45.

脂肪組織への感染と 肥満患者が予後不良な理由 Sci Transl Med. 2022 Dec 7;14(674):eabm9151. 脂肪細胞や脂肪組織に存在するマクロファージ への感染による局所および全身性炎症の誘発 を通して,COVID-19の重症化に寄与する可能 性が示唆された.

46.

小児における扁桃とアデノイドの 持続感染 アデノイド 喉の奥のリンパ節の塊 Braz J Otorhinolaryngol. 2022;88:9. doi: 10.1016/j.bjorl.2022.10.016.

47.

さまざまな臓器におけるウイルスの検出 鼻咽頭ぬぐい液PCR陰性 ≠ ウイルス消失

48.

脳を含む非呼吸器系臓器での 持続感染と複製 Nature Dec 14, 2022 (doi.org/10.1038/s41586-02205542-y) 症状発現2週間の間に非呼吸器系臓器 (心筋,リンパ節,坐骨神経,眼組織, 中枢神経)でウイルスの複製が確認さ れ,症状発現後230日目でもウイルス 複製が確認された. 培養細胞を用いて,13日目の視床か ら複製能を持つSARS-CoV-2ウイル スを回収した.同ウイルスはヒト脳に 感染したのち複製する能力を有する ことが立証された.

49.

ウイルスは各臓器で独立して 持続的に増殖している Nature Dec 14, 2022 (doi.org/10.1038/s41586-02205542-y) • 気道の検査でウイルス陰性になっても,患者のウイルスが消滅し たことを意味しない(持続感染). • 強い炎症は呼吸器系に特異的に見られるので,呼吸器系の症状 が出る. • 子供では,全身への感染がほとんど炎症を伴わないので症状が 出にくい. • ウイルスは脳に到達し,独自に増殖しうる!

50.

SARS-CoV-2ウイルスが脳血管に影響を及ぼす機序 マウスにおいてスパイク蛋白が bioRxiv April 5, 2023. 標的とする臓器は全身に及ぶ (doi.org/10.1101/2023.04.04.535604) 腎,肝,腸,膵, 卵巣,精巣 頭蓋骨・髄膜・脳

51.

bioRxiv April 5, 2023. (doi.org/10.1101/ 2023.04.04.535604 )

52.

SARS-CoV-2ウイルスが脳血管に影響を及ぼす機序 スパイク蛋白は頭蓋骨骨髄から bioRxiv April 5, 2023. 脳内に到達する (doi.org/10.1101/2023.04.04.535604)

53.

SARS-CoV-2ウイルスが脳血管に影響を及ぼす機序 推定される脳への感染ルートは 少なくとも4つ! Front Neurol. 2021 Jan 20;11:573095 第4のルートとして,頭蓋骨・髄膜ルートが加わった.

54.

SARS-CoV-2ウイルスが脳血管に影響を及ぼす機序 ヒト頭蓋骨骨髄から検出される bioRxiv April 5, 2023. スパイク蛋白 (doi.org/10.1101/2023.04.04.535604) • 過去にCOVID-19に罹患し死亡したドイツ人の60%に回復後長い 時間を経て頭蓋骨におけるスパイク蛋白の蓄積が確認された. • COVID-19以外の原因で死亡した患者では29%に認められた.

55.

SARS-CoV-2ウイルスが脳血管に影響を及ぼす機序 頭蓋骨骨髄に注入したスパイク蛋白は bioRxiv April 5, 2023. 28日目の神経細胞死をもたらす (doi.org/10.1101/2023.04.04.535604) コントロール SARS-CoV2 S1 インフルエンザHA

56.

SARS-CoV-2ウイルスが脳血管に影響を及ぼす機序 頭蓋骨骨髄に注入したスパイク蛋白は bioRxiv April 5, 2023. 3日目にアミロイドβ産生をもたらす(doi.org/10.1101/2023.04.04.535604) コントロール SARS-CoV2 S1 インフルエンザHA

57.

軽度の呼吸器感染でもミクログリア活性化や Cell. June 16, 2022 海馬の神経新生を障害する. doi.org/10.1016/j.cell.2022.06.008 マウス・ヒト軽度の呼吸器感染 ケモカインCCL11(エオタキシン)を含む 若年マウスに老齢マウスの血漿を暴露させると 認知機能障害をきたす(Nature 477, 90–94, 2011) 神経炎症

58.

軽度の呼吸器感染でもミクログリア活性化や Cell. June 16, 2022 海馬の神経新生を障害する. doi.org/10.1016/j.cell.2022.06.008 マウス・ヒト軽度の呼吸器感染 ケモカインCCL11(エオタキシン)を含む 若年マウスに老齢マウスの血漿を暴露させると 認知機能障害をきたす(Nature 477, 90–94, 2011) 神経炎症 神経機能回路障害 認知機能障害 ブレインフォグ 髄鞘化の障害 神経新生の障害

59.

ウイルスが脳細胞の融合をもたらし 機能不全を来たす Sci Adv. 2023 Jun 9;9(23):eadg2248. doi: 10.1126/sciadv.adg2248 hACE2+GFP を電気穿孔法で導入後,SARS-CoV2感染させると融合する マウス・ヒト脳オルガノ イドにおいてSARSCoV-2感染,ないし スパイクタンパクが, 神経細胞同士,神経 細胞・グリア細胞の 融合をもたらす. 死滅はしないが, シナプス活性が障害さ れる(融合した神経の 90%は同時に発火し, 残り10%は活動がな かった).

60.

ウイルスが脳細胞の融合をもたらし 機能不全を来たす Sci Adv. 2023 Jun 9;9(23):eadg2248. doi: 10.1126/sciadv.adg2248 ウイルス性fusogen(融合物質) → 脳細胞の不可逆的な融合 → 神経細胞コミュニケーション不全

61.

アルツハイマー病病理変化を サイトカインが促進する可能性がある Transl Neurodegener. 2022 Sep 11;11(1):40 ACE2受容体への結合と発現抑制 アストロ サイト 活性化 ミクログリア 活性化 ほかにも ApoE4アリルが神経 炎症を増強する ADの海馬・側頭葉で Angiotensin II Ang II type 1 R Aβ,タウ凝集 炎症性サイトカイン (IL1β,IL6,TNFa) Angiotensin-(1-7) Mas receptor ACE2発現が増加し, ウイルスとの結合を 増強する等,指摘さ 神経変性 れている. Brain Sci. 2022;12:1405

62.

ウイルス持続感染による認知障害の機序 1.スパイク蛋白による神経毒性 2.サイトカインによる神経炎症の惹起 3.脳細胞融合 4.既存のAD病理の促進 → もしやCOVID-19以外のウイルス感染も 神経疾患の発症を促進するのでは?

63.

ウイルス感染はCOVID-19にかぎらず,アルツハイマー病, ALSなど神経変性疾患発症の引き金となる! Neuron. 2023 Jan 11:S0896-6273(22)01147-3. ハザード比 FinnGen UKB ウイルス性脳炎 アルツハイマー病 30.72 22.06 ウイルス性脳炎 認知症 6.56 40.12 インフルエンザ肺炎 アルツハイマー病 4.11 2.60 インフルエンザ肺炎 ALS 1.81 7.91 インフルエンザ肺炎 認知症 2.87 6.12 インフルエンザ肺炎 パーキンソン病 1.72 2.98 インフルエンザ肺炎 血管性認知症 4.62 6.79 COVID-19は検討されていないが,上記以上のリスクと推測される

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ウイルス感染はCOVID-19にかぎらず,アルツハイマー病, ALSなど神経変性疾患発症の引き金となる! Neuron. 2023 Jan 11:S0896-6273(22)01147-3. ハザード比 FinnGen UKB ウイルス性脳炎 アルツハイマー病 30.72 22.06 ウイルス性脳炎 認知症 6.56 40.12 インフルエンザ肺炎 アルツハイマー病 4.11 2.60 インフルエンザ肺炎 ALS 1.81 7.91 インフルエンザ肺炎 認知症 2.87 6.12 インフルエンザ肺炎 パーキンソン病 1.72 2.98 インフルエンザ肺炎 血管性認知症 4.62 6.79 COVID-19は検討されていないが,上記以上のリスクと推測される

65.

小括3 • 認知症を含む神経後遺症の機序として,ウイルスの 持続感染が重要視されている. • Viral reservoir候補がいくつか示されたが,むしろほぼ 全身の臓器にウイルススパイク蛋白が存在しうると 考えられている. • 持続感染が認知機能障害を引き起こす機序について も徐々に解明されつつある.

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注目される治療研究

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Long COVID 神経症状に対する臨床試験 Nature. 2022 Aug;608(7922): 258260(doi.org/10.1038/d41586-02202140-w)に一部追加改変 • COVID-19ワクチン • 抗ウイルス剤 (モルヌピラビル,ニルマトルビル+リトナビル,レムデシビル) • コルヒチン,ステロイド(コルチゾール),シロリムス • 抗ヒスタミン薬(ファモチジン,ロラタジン) • RSLV-132(RNase-Fc fusion protein;血中を循環するRNAを除去) • 抗うつ剤(ボルチオキセチン) • 抗凝固薬カクテル • 高圧酸素療法(小規模ながらRCTで効果確認) • メトホルミン

68.

動物実験でワクチンは脳における ウイルス複製と障害を抑制する Nat Neurosci. 2023 Jan 9. doi: 10.1038/s41593-022-01242-y ワクチンは脳を守る 可能性がある

69.

long COVIDに対するワクチン接種は 120日後の寛解率を2倍に高める フランスの報告. 感染後3週間以上, 症状が持続する 成人910人. 接種群では,ワク チンを参加登録後 60日目までに接種. 120日の寛解率は 2倍(16.6%対 7.5%,ハザード比 1.93). mBMJ Medicine 2023;2:e000229

70.

PASC はワクチンにより減少し, 再感染により増加する Tanayott T et al. JAMA. May 25, 2023. doi:10.1001/jama.2023.8823 RECOVER研究 ↓ ワクチンにより 減少する ↓ ↑ ↑ Acute :感染から30日以内にPASC出現 Postacute:感染から30日移行にPASC出現 再感染により 増加する

71.

ワクチンによるPASC抑制効果は メタ解析でも確認された Martí C et al. Lancet pre print 13 Jun 2023 doi.org/10.2139/ssrn.4474215 英国 * ハザード比 英国 0.55~0.84 スペイン ファイザーワクチンは, * アストラゼネカワクチン * エストニア * より抑制効果が強い

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発症7日以内のメトホルミン内服は Long COVID発症を抑制する Lancet June 08, 2023 https://doi.org/10.1016/S147 3-3099(23)00299-2 偽薬群562人 メトホルミン群564人 14日間(500→1500mg漸増) 米国の報告.発症7日未満の肥満傾向または肥満成人. 累積発生率(300日):メトホルミン群6.3%,偽薬群10.4% 発症7日以内開始 HR 0.59.3日以内開始 0.37. メトホルミン:抗ウイルス作用(mTOR阻害),抗酸化ストレス・抗炎症

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medRxiv November 05, 2022. (doi.org/10.1101/2022.11.03.22281 783) 抗ウイルス薬の効果 重症化のリスク因子が少なくとも1つあり,診断後30日間生存した患者を特定した. 陽性反応後5日以内にニルマトルビル(パクスロビド®)を内服した9217人と,対照 4万7123人の評価を90日後に行った. 認知機能障害 も抑制された 0 0.5 1.0

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注目の臨床試験の開始 PaxLC clinical trial ClinicalTrials.gov Identifier: NCT05668091 A Decentralized, Randomized Phase 2 Efficacy and Safety Study of Nirmatrelvir/Ritonavir in Adults With Long COVID. 第2相 1:1無作為化二重盲検試験 非入院の重症long COVID成人100名 Paxlovid(nirmatrelvir/ritonavir)を15日間 とplacebo/ ritonavir を比較 5日間でなく,15 日間使用する理由は, reservoirのウイルスを除去するため. Prof. Akiko Iwasaki Yale University 2024年1月終了予定.

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小括4 • 持続感染による脳への障害を考慮すると,ワクチン 接種や抗ウイルス薬が long COVID に有効であること は理屈に適っている. • 複数の臨床試験が進行中であるが,抗ウイルス薬の 長期間投与が有効であるかどうかが注目されている. • COVID-19から脳を守ることを啓発する必要がある. ご清聴,ありがとうございました!